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弱点

 さて。


 ここで一旦、彼の話はお休みしよう。


 と言っても、ここで茶飲み話などするのも話が違うな。


 ここでするのは、人間側の話だ。



 彼からの攻勢に為す術もないかのように見える人類。


 だが、本当にそうなのだろうか。


 この地上の支配者。いまや海中や宇宙にまでその手を広げんとするヒトは、そんな程度の生き物だったのか。


 否。



 人類は既に、彼を攻略するヒントを得ていた。



 日本。国立特殊生命研究所。ウイルス、微生物、未知なる巨大生物などの研究を任されている世界にも2つしかない施設だ。以前は対妖怪の部署などがあったのだが、1990年台からはUFO対策が主だった働きか。世界未出現の怪獣や恐竜などとの戦闘研究を行っているだけでなく、超危険ウイルスなどの最先端の研究もになっている。


 先日、ここに一体の超特殊サンプルが持ち込まれた。完全装備の自衛隊隊員が40人がかりで。


 そう。彼の分体の1つだ。



「この生物の研究いかんによって、この国の未来が決まる。現在も連続する行方不明事件を終わらせるためには、私達の力が必要だ」


 言いつつ。研究所所長の顔色は、悪くなかった。


 彼にとってこれは、またとないチャンス。長年、税金の無駄遣い、国家公務員一の無駄飯食らいとの悪評を受け続けて来たが。これで、一発逆転だ。


 やっと私達の真価を発揮出来る時が来た。



 分体は、生かさず殺さず、周囲を5センチの厚さの鋼鉄で作られた空間に閉じ込められていた。分体がアメーバ状に自在に変形出来る事は知られている。空気穴は、火炎放射攻撃装置付きの換気扇だ。


 実験室自体、一瞬で炎の地獄になるように、火炎装置を設置済み。万が一にも不手際が生じ次第、研究員もろとも焼き尽くす。どの道、分体の自由行動を許せば、研究所は全滅する。その前に部屋1つで済むなら、安いものだ。


 無論、研究員は意思確認書にサインをしている。


 人類のために死の覚悟を決めた者。死んだ友人のために戦う者。家族を守るため最前線に立つ者。好奇心に身を焦がす者。理由は様々だが、それぞれが使命感、責任感を持ち合わせた者達だ。



 分体は少しずつ、研究されて行った。


 食物を取り込む能力。自在変形の能力。その代わり、大変なエネルギーを使う事。


 鋼製のカバーを被せたマシンアームを用いたため、幸いにも人間の被害は出ずに研究は進められて行った。


 そして、最も大事な事。


 彼の、弱点。



 分かった。



 この生き物、地上のどこかで生まれたらしい。塩分によって行動不能に至る。身体構成に大量の水分を必要とする割に、排出能力が低い。あらゆる素材を自らの武装、道具として用いる事が出来る代わり、食物の取捨選択能力は無いに等しい。試しにチタンを与えてみた所、その金属を含んでしまった身体部品を丸ごと切り捨てた。トカゲのしっぽのように。


 恐らく、塩分などを摂取する際には、大量の土を一気に取り込むのだろう。その後、不要な成分を肉体ごと排出する。合理的なようで不効率な体だ。だから身体を自由にいじれる代わり、大量のエネルギーを必要とする。


 結論。


 この生き物を殺すのに必要なのは、濃い塩。


 日本国は、それを大量に用意する事が出来る。



 問題は、塩水を大量に用いれば、塩害は避けられない。



 ・・・農業は、捨てるしかない。致し方なし。人の命には、代えられない。



 研究成果を元に、政府は大量の塩を用意。食塩から凍結防止剤まで、あらゆる塩を調達。


 そして全国の消防車を海辺に走らせ、海水を撒き散らす。まず、海辺の確保。それから、魚介類の運搬などに用いる水槽を載せた車で、海水を街中に次々と運ぶ。


 ちょうど暇になった農業関係者をかき集め、街での放水作業を開始。ビル建物、道路、民家。全ての土地に海水を。


 人海戦術でもって、一区画ずつ丁寧に潰して行く。


 植物が生えていようがなんだろうが、アリの踏み入る隙間も残さず、海水で塗り固める。


 これで、街の怪生物はお陀仏だぶつだ。



 人類の戦略は正しく、理に適っていた。


 彼のなんでも取り込める能力を逆手に取ったやり方は、慧眼けいがんとさえ言えよう。


 もしも、彼が生まれて間もなければ、これで倒せていたに違いないのだ。



 少し。


 遅かっただけだ。

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