偽装崩壊
黒徒と名乗った変な人がいなくなってからしばらくして、赤い空間に変化が起き始めた。
壁にいくつもひび割れが生じている。何がどう狂ったのか音声だけがスピーカーから大音量で流れ、モニターには何も映っていない。
『頼む……もう殺してくれぇ……』
『あぁ?悪りぃが俺はクソつまんねぇ奴は嫌いなんだ。おらッ、とっとと命乞いしてみろよゴミ野郎!!』
何かを蹴り飛ばした様な音を響かせながら、ジギーが怒鳴っている。
ジギーの声は、ボクのモノじゃない。だけど耳障りだから耳を塞ぐ。
『機関の事がバレるぐらいなら、俺は……』
『……テメェもそうやって逃げんのか……下らねぇなァ!!』
塞いでも、はっきり聞こえた。
グチャリ、と肉を抉る音が。
『……そういや、さっきから変な感じがしたんだよなぁ。中で話してると思ったら、その次は怯えてるみてぇな』
『よぉクロト。こっちは現実逃避させてるつもりだってのに、聞こえてんのか?』
『どうした?息荒いぞ……お前も欲求不満か?俺もだ、全然殺し足りねぇ。……まぁいいや。俺の声が聞こえてんなら、面白い話をしてやる』
『俺はな、自分が人を殺したって事から現実逃避するためにお前が生み出した人格だ。外部から侵入してきた訳じゃねぇ』
嘘だ。
『お前に記憶がなくても、俺が何人人間を殺しても、世間から見りゃお前は殺人鬼だよ。無関係な人間を1億人は軽くぶっ殺してんだ』
嘘だ。
『母親と父親を殺したのもお前だ』
嘘だ。
『お前、双子の妹いたよな?沙羅って言ったか。ただの友達だって勘違いしてたけど、そいつも殺してたな』
……嘘だ。
『後界人とか言うのも殺したろ、なんで生きてんのか知らねぇけど。
……お前はただの「人殺し」じゃねぇ。「家族殺し」「仲間殺し」もおまけについてきてる。
__つまりはバケモンだよ』
違う。
ボクはバケモノじゃない。
ただ不幸にも妙な力を得てしまった……
『念を押しとくぜ。仮に人殺しじゃなくても、お前はバケモンだ』
天井が崩れ、視界が開ける。
ガラスの破片と人の形をした何かが散らばっている床。
足元にいた何かと目が合う。反射的に顔を上げた。
「……クロト、来てくれたんだ!」
先端にいくにつれて金色になっていく髪。黄色と緋色の目。
「……」
「クロト……?」
違う。
「来る、な」
「え?」
沙羅は、ジギーが殺したハズだ。
「ふざけるのも……いい加減にしろ!!」
……ここにいる訳がない。




