ACT:4-5/赤の悪魔
「ほへー、でっかいっスねー」
目の前にそびえ立つそれは総合拠点よりも遥かに高く、いくら見上げても終わりなど見えない。
時々色を変える半透明のこの壁は、異能者区域と一般区域を隔てる壁であり、双方を繋ぐ巨大転移術式でもある。
「……よし、これでOK」
一般人がこの転移術式を使用するためには、わざわざ防衛軍の本部に出向いて許可証をもらわなければならない。
俺とネムさんは2回ほど利用しているためにこのシステムは理解しているが、許可証が使えるのは1回きりだ。転移許可証を発行せずにどうやって設定出来たのだろう。
「言ってなかったっけ?八王子の血を持つ異能者は魔術を使うのもいじるのも得意中の得意なんだよねぇ」
……話す前に読まれてしまった。
「……んで、どうすればいいんだ……?」
「簡単だよ。ここに入ればいいだけ」
何故か早口で言うと、ネムさんは物凄い笑顔で時紅を突き飛ばした。
半透明の壁は、水面が波立つ様に歪み彼を飲み込む。
それに続いてトランが入っていき、皆は続々と半透明の壁に消えていく。
残りは俺とネムさんだけと言う所で、ネムさんは口を開いた。
「……質問、もうひとついいかな?」
「何でしょうか」
「僕の事、恨んでる?憎い?」
……何を聞くかと思ったら、そんな事か。
「読んでみれば良いじゃないですか、その能力で」
ネムさんはしばらく固まっていたけど、やがて笑った。
「本当に甘いねぇ、君は」
「ど……どうとでも言えばいいです」
ちょっとした意地悪のつもりだったけど、どうやらこれも読まれていたらしい。俺は早足で壁へと歩き出す。
「僕なりに励まそうとしたんだけど、逆に怒らせたみたいだねぇ」
ネムさんがわざとらしく言って追ってきたので、壁に押し込んでから俺も入った。
地響きと共に足元の魔法陣が眩い光を放つ。それが消えた頃には、半透明の壁も姿を消していた。
「さっぶぅ!!関東の方が冷たいって本当だったんスね……うぅ」
異能者区域にいた時よりも冷たい風が肌を刺し、俺も思わず身震いしてしまう。
「まぁ、雲に近いし仕方ないねぇ。夏は涼しいからいいけど冬は勘弁だよ。……いや年中勘弁だけどねぇ、こんな大規模葬式会場は」
コンクリートで固められた黒い地面とほんのすこしの銀世界の先には、黒いビルが群れを成している。
一般区域の都市部は、どこも普通に行けば迷ってしまうほどに複雑になっているけど……どうやって姉貴を追い掛けるのだろうか。
「こ、ここまで広いと迷うんじゃないかな……」
「旧式の携帯端末にはGPS機能って言うのがあるからねぇ。その改造アプリを「赤の悪魔」って呼ばれてる、知り合いの技術者に作ってもらったんだ。それを使って追い掛けられるよ」
リストフォーンを見てみると、「ストーキングプログラム」なる奇妙なアイコンが追加されていた。タップすると「地図が読めない人は消去して下さい」と言う間抜けな注意書きの後に地図が表示され、黄色い点が動いていた。
「……この黄色いのを追い掛けろって事アル?」
「そう言う事。じゃ、早く行こうか」
ネムさんはホログラムを表示させてから走り出し、俺達もそれに続いた。




