月冬のミーティア
転移術式で都市部に転移し、俺達は壁を目指して歩く。
どこの店も閉まっていてほとんど灯りは見えないが、総合拠点は圧倒的な存在感を放っていた。
「……聞き忘れてたや。千絋ちゃんの大義名分は?」
思い出した様にネムさんが言った。そんな事は聞かずとも分かっているだろうに。陰湿なヒトは嫌いだ。
「……姉貴が人を殺すのは、機関の奴らを殺せないからじゃないかと思います。姉貴にはもう人を殺して欲しくない。……俺は、姉貴のために戦いたいです」
「クロトが人を殺さなかったら永遠に封印されるけど、それはどうするんだい?」
にやにやと笑うのをやめ、ネムさんは尋ねてきた。
「ポルカさんの『約束』は、本人でさえ破る事が出来ませんが……眠らせるか殺す事で解除出来ます」
「え……?」
「この様な忌々しい行事が行われているのは、あの人の『約束』の効果が眠る事でなかった事にされているからでしょう。本当に悪いけど、事が済んだらポルカさんには一生眠ってもらうつもりです」
俺の言葉の意味を飲み込んだのか、呆然としていた彼女は眉をしかめた。
「そしたらミズガルズ連合は?異能者区域はどうなると思う?……君は、1人の事だけを考える様な子なのかい?」
今の俺は、ただ自分勝手なだけだ。いつか渡される「それなりに重いモノ」を背負う必要があるだろう。
「……私情が過ぎるとは分かっています。だから俺は、予定よりも少し早めにミズガルズ連合、そのリーダーの座を継ぐつもりです」
「少し早めに?」
「「何百年と先になるかもしれないけど、私が死んだ後はリーダーの座を継いで欲しい」と言われましたから」
ネムさんは俺の目をじっと見つめる。この人に見られていると、自分の隠している事が全てバレそうで落ち着かない。あまり目を合わせたくないな、と思っているのもバレているだろうか。
「……ごめんねぇ、嫌でも全部伝わって来るんだよ。君が時紅君とクロトのどっちを取ればいいか散々悩み続けてる事も、リーダーの座を継ぐ事が不安で仕方ない事も……僕に見られるのが落ち着かない事も、全部」
はぁ、とため息をついてから、彼女は胸に拳を突きつけてきた。
「でも、言っちゃった以上はそれをやりなよ。世間の目とか評判とか、「どうなってもいいや」って放り投げてさ。でなきゃどうにもならない。これが先輩からのアドバイス」
「おーい、何やってんだー?」
「先輩ぶってただけさぁ」
そう言ってネムさんは俺の先を行く。
音もなく雪が降り始め、俺もそれについて走った。




