ACT:4-2/ハンデモニック
魔力閉鎖症候群(クローズシンドローム)。
魔力を放出する器官が機能せず、魔術を発動する事が出来ない病気。魔力の自然放出も出来ないため、身体や精神に異常が現れる事もある。……病気とは言うけど、立派な先天性の障害だ。
しかし、これには語弊があると思う。発動出来ないと言うのは「正しい状態で具現化出来ない」と言う事だ。かなり痛いけど、元からあった魔術を壊したり性質をある程度歪ませたりは出来る。
この障害を利用して術式を歪ませ、監視のある担当区域ではなく、ボクを改造した奴がいる場所に行く。
一か八かの賭けだったけど、どうやら成功した様だ。
黒塗りの建物が立ち並び、黒塗りの車が無数に往来している。行き交う人は黒以外の服を着て、一様に疲れた顔をしている。自己主張のつもりなのだろうか。どうせ、消される命なのに。
……ああ、それは知らないか。
頭の奥で囁き声が聞こえる。早く意識を手放せ、と。
……その前に、ボクにはやる事がある。
何年もここには来ているけど、ボクの顔を見て逃げる人はいない。
いないけど、ひそひそと話す声ならある。
「うわ……こいつ、異能者区域の奴じゃねぇか。また人殺しに来たのかよ」
「違うって。ここらの墓地に勝手に死体埋めてった異能者がいるって聞いた事あるだろ?それがあいつなんだとよ。迷惑な話だよな」
「あー、そのせいで誰も近寄らなくなったのか、あそこ。そういや墓石掃除のバイトとか出てたなぁ……異能者ってやっぱりおかしいよ。あいつも一般区域の事嫌いなくせして、何であんな所に埋めたんだ?」
「知りたくもねぇよ……ほんっとにバケモンだな、あいつ。何しても死なないとか気持ち悪りぃ、ゾンビの方がまだマシだわ……」
誹謗中傷していく男二人に、すれ違い様に呟いた。
「そうか」
どよめきには構わず、ボクは墓地のある方角に向かった。あの二人がどんな顔しているのかは、容易に想像出来る。きっと驚いている事だろう。一瞬で両の目を抉り取られたのだから。
……本当のボクは、バケモノなんかじゃない。
何分か歩いていくと、その墓地はある。
乾ききった風が吹いていて、雑草すら生えず、何の飾り気もない黒の墓石が淡々と並べられた広い場所。
その奥にある白い十字架の前に立ち、枯れた花をどかして新しい花を添えた。
石に名前は刻まれていない。覚えているのはボクだけでいい。彼女はどう思っているか、心配だけど。
……負浄 沙羅(ふうじょう さら)。ただの友達ではなく、コンビを組んで仕事を行っていた唯一の親友。定期任務にも一緒に参加していた。
「……ごめん」
こんな事、言いたくない。ボクが殺した訳じゃないのに。殺す訳ないのに。
毎回毎回、うわべの言葉で、犯してもいない自分の罪を語るなんて。
__なら「代わって」やるよ。お前がバケモノになろうとしないなら、俺がバケモノになってやる。
……そういう約束だろ、クロト?
やがて、音もなく赤い雨が降り始める。
全てが赤で染まっていく中で、ボクの姿をしたバケモノが笑っていた。




