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BORDER:ARRIVE ~絶対少女と不可視の境界~  作者: GAND-RED
ROG:4/この狂った世に終止符を
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閑話:純潔たる花は月夜の下で

晩飯の後に呼び出され、この寒い中庭に連れて来られ、今度は何だと思ったらネムはとんでもない事を話した。


どうやらあたしは異能者ではなく、人間だったと言う。ドンを改造した奴らの一人に、中途半端な能力だけを与えられて捨てられたそうだ。それで、ネムはあたしの監視を命令されていた……らしい。

「……ごめん、隠してて。でも、話さないと澪の大義名分は作れないと思って」

「あのな、そりゃ最初は驚いたけど……別に人間だろうと異能者だろうと、あたしはあたしだ。テメェが思ってるほど弱い奴じゃねぇぞ」

けしからん乳を小突いてやると、ネムはため息をついた。

「ほんっとあんたはバカだよねぇ……そんなんじゃ大義名分と「そのあとのこと」もクソもないじゃないか、僕は散々悩んで決める所が見たかったのにさ。あーあ、話して損したよ」

長い髪を束ねてしゃがみ込み、クリスマスローズを眺めながら彼女は唇を尖らせる。意外と子供っぽいんだな、こいつ……

化けの皮を剥がしてからは、新しい発見を1日に何回もしている。バナナだけは頑なに食べようとしないとか、あたしの嫌いな鶏の胸肉が好物とか。あんなパサパサしたもんのどこが旨いと言うんだろうか。

「……で、どうなの。僕がせっかく話したのに大義名分も「そのあとのこと」も何もないなら、一人でお留守番だよ?淋とトランは「親殺ししてから里帰り」、時紅君は「叔父への見せしめの後は千絋ちゃんに告白する」って、皆決まってるよ。……よくよく考えたら、身内に関係者が多いねぇ、僕ら」

本当にだ。まるで最初から決まってるみたいにあたしらは集まった。そしてやるべき事を果たして、皆どこかへ行こうとしている。

「ボクはキミ達を縛っていたのかもしれない。この組織は、やるべき事をやったら解散しよう。で、正月とかクリスマスにはまたここに集まる。多分、それがいい」、昨日のドンはそう言っていた。それならあたしもどうするべきか考えて、ちゃんと決めるってもんだ。

さてはこいつ、何にも分かってないな。

「別にどうも思わないからってない訳じゃねぇっつの。……あと、大義名分はもう決まってる。皆みたいに大して重いもんじゃねぇし、カバン持ち程度のもんかもしれねぇけど」

小バカにした様な笑みを浮かべられた。前はムカついて殴っていたけど、今はほっぺたをつねるだけに留めている。女の子だし、加減してやらないとそのうちむくれて口も聞かなくなるかもしれない。

「いだだだだ」

「人の考えバカにしようとすっからだぞこのキツネム、あたしはな……

「テメェの仇討ち」だ。今も散々セクハラされてんだろ?なら、ぶっ倒して豚箱送りだ」

「殺すとは言わないんだねぇ、僕の父親はコネがあるから捕まらないけど?」

「……どうにもならねぇなら、殺してやる。ネムのためなら人殺しだってやれる」

相当驚いたらしく、ネムは茎の棘に指を刺してしまった。白過ぎるぐらいの肌に、赤い血がじわりと滲む。それをくわえてやるとまた驚いた。

「は、恥ずかしいからやめて欲しいねぇ、医者の娘だし絆創膏と消毒液ぐらいは常備してるよ……僕のためにって言うのは嬉しいけど、それは僕の大義名分。純潔だった僕の仇討ちは、僕がやる」

強引に指を引き抜き、どこからかポーチを取り出してこいつはさっさと手当てを済ませてしまった。

「じゃあ、「親見つけてぶん殴って豚箱送りにする」。そんで、終わったら……テメェと一緒にいれる様に頑張る、これでいいだろ」

「豚箱送りしか脳にないの?呆れたねぇ、ははは」

彼女は最後には何も触れずにバカにしてきた。意図的にやっている所があるな、と思ってもう一度つねってやる。

「悪いかよ。……テメェは「そのあとのこと」ちゃんと考えてんのか?」

「痛いなぁ……ちゃんと考えてるよ」

おもむろにポーチの中を漁り、小さな箱を取り出した。

「何だよそれ」

ネムは無言で微笑むと、箱を開けてみせる。


そこには無色透明の石が填められた指輪があった。

「え……えっ!?」

「婚約指輪。澪が頑張ってもどうにもならないからねぇ。__だから、これが終わったら、結婚してくれないかな」

頭が真っ白になりそうだった。確かにこの国では女は16歳以上なら結婚出来るし同性婚も認められているけど、それを同時にやろうとする奴なんか見た事も聞いた事もない。でも、早過ぎやしないだろうかとは思わなかった。自分もちょっと……いやかなりどうかしている。

「……いい、けど……幸せにするのはあたしだからな、絶対、絶対……幸せにしてやるから」

なんとかそう言うと、ネムは右手の薬指に指輪を填めてはにかんだ。

「それは僕のセリフだよ、澪」

「う……うるせぇバカ!!」

ほっぺたをつねろうとすると、近くでがさっ、と何かが動く音がした。音のした方に目を向けると……


「「あ゛」」

千絋ちゃんがそこにいた。

「あの……ちゃんと来たんですけど、し、失礼しました……!!」

茹で上がったカニみたいに顔を赤くして、一目散に飛び出していく彼女を見て、こちらもより一層顔を赤くする。

「へぇ、流石の澪も同じ気分だよねぇ……でも、戻って来てくれて良かった」

強引に締め括ろうとするネムを叩いてやった。こいつはやっぱり気持ち悪い。


……気持ち悪いけど、大好きだ。

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