ACT:4-1/血の貢献
ボクを含めた殺し屋達は、総合拠点の地下に集まっていた。普段から殺し屋の集まる所なせいか、並べられた椅子や壁にちらほらと血痕がついている。
「……腐ッてモ何のタめに彼らを殺すのカと考えるなヨ。俺かラは以上だ」
壇上に立ち、演説を終えた界人は拍手に見送られながら席に戻っていった。
「では定期任務常連の死々王さん、どうぞ」
黒いベールで顔を隠した司会がボクを呼んだ。壇上に上がり、一礼する。
「皆が今回の任務に参加した理由は様々だろう。生活資金を稼ぐため、快楽殺人を行うため、憂さ晴らしのため……それを咎める者はいない。先程界人が言った様に、彼らを殺す事に疑問を持たないでくれ。これは相手の了承を得た上での行事だから……ただ自分の目的を果たすために殺戮に励んで欲しい。聞き飽きた人もいるだろうけど、ここで罪悪感を持つ奴はバケモノだ。早急に足を洗う事をおすすめするよ」
ボクの言葉に拍手は送られず、ただ頷く人と嫌そうな顔をする人がいるだけだった。
けど、ボクはこれ以外に言う事なんてない。言い回しを変えたりもしない。この言葉だけが、ボクの行いを物語っているのだから。
特に今年はもっと酷い事をするから、念入りに言っておく必要がある。
一礼して元いた席に戻り、携帯食料をかじった。
そこそこ高名な殺し屋達がネジのイカれた言葉を聞かせてくる。それに飽きてリストフォーンをいじろうとした時、有り得ないモノを見た。
「では、最後に初参加となりますゴミ女……じゃなくて元世界最強、現ゴミ以下……音邨さんに締めてもらおうと思います、どうぞ」
壇上に上がったのは、この場には到底似合わない顔だった。
「あー、ちょっと何言っとるんよ!昨日セクハラしただけでその言い方はないわぁ!!……よぉお前ら、女の子好きかぁ?」
これから人殺しをするヒトの顔とは思えない笑顔で、元世界最強……咲は片手を上げる。勿論彼女の問いに答える人はいなかった。
「え?何?皆ノンケかゲイ?つまんねーな……まぁとにかく!あっしも普段から趣味で女の子殺してたんやけどバレちまってなー、ここで何百人か殺したら許してくれるって言われたからやらせてもらうわ、宜しゅうな!」
突然のカミングアウトに、辺りがどよめく。何もおかしい事はない。女の子が大好きで昼間から畑に出掛けて農作業をしているだけの幼馴染み、そう思っていた相手が女の子しか狙わないシリアルキラーだったらボクだって驚く。
何でもない様に手をひらひらさせると、壇上を下りていった。
「本当イカれてるな……ありがとうございました。……それでは、各自指定されたエリアの転移術式に……」
さっきのでだいぶ驚いたけど、やる事は変わらない。ナイフをポケットにしまい、息を吸った。
世界最強と言われるボクだけど、ひとつだけ凶悪なハンデがある。
「__古の闇よ、「魔」となり甦れ」
歪な形の魔法陣が現れた。本来現れるハズの悪魔の紋様は、鎖に覆われてほとんど見えない。
「呪われた因果を絶ち……がッ……」
「え……ちょっと、どうしたんだよ絶対王!?」
「嘘だろ、なんでこんなに血が!!」
心臓を抉り出された様な痛みが身体を突き抜け、本当に胸元から血が染み出した。口からも血が溢れ、まるでチョコレートファウンテンの様にそこらのモノを血で汚していく。
「新たなる……理、を」
血に妨げられながらも詠唱を続け、「S-4」と書かれた転移術式に手をかざす。
「……これで、最後だ……」
歪んだ魔法陣の真ん中に無が生まれ、転移術式とボクを飲み込んだ。




