ROG:4-5/逃籠城のヴァルキュリア
……視線が痛い。何故皆俺ばかり見るんだろうか。
苛つきながらインターホンを押すと、すぐにドアが開かれた。
「はいはーい……っておおお!?マイクールビューティガール!!どうしたん、そんな荷物持って!!」
現れた人物……咲は俺の姿を見つけるなり、気持ち悪くそう言った。
……こうなると思ってはいたが、やはり気分が悪い。これだからこいつと関わるのは苦手なんだ、とココロの中で毒づき、すぐに振り払った。
「……すまないが、檜を呼んでくれないか。頼みがある」
「檜?今昼寝してるんやけど。まぁええや、とりあえず入って入って」
普段の行動からは想像もつかないほどに優しく手を取って、彼女は俺を拠点に連れ込んだ。咲にたぶらかされる人は、こう言う所に惹かれるんだろう。
……理解出来ない。あの人とは大違いだ。
「ふっふーん、運が良かったな!今ちょうど掃除した後なんだぜぃ!」
どうだ偉いだろ、と自慢気に鼻を鳴らす咲に無言で頷き、炬燵に入る。
リビングも兼ねているらしい応接間。ここには何度か足を踏み入れているが、いつも足の踏み場が炬燵机周辺しかないぐらいに本が散乱しているのだ。あまりのひどさに思わず掃除を手伝った事もあった。
本当に良かった、と胸を撫で下ろしていると、持ち手のないカップ__確か『ユノミ』と言ったか__に入った緑茶が出された。咲は何が入っているかも分からない、緑色の怪しい液体が注がれたグラスを持っている。
「で、檜の用はあっしの用でもあるんよ。何かあるんなら言ってみ?」
「ひっ!?」
彼女は鉄の臭いがするそれを一気飲みし、何事もなかったかの様に笑った。
……あれで生きていられるのか!?
その笑顔は普段の欲にまみれた笑顔とは全く違うモノであったが、俺は液体を飲み干した事の方にしか考えが向かない。
「ん?」
「い、いや……さっきのは」
「あれ?青汁よ」
絶対に違う、青汁からはそんな臭いはしないハズだ!!
赤い色素、そして肉とは無関係なあの液体に一体何が入っているのか。ほうれん草でさえそんな臭いはしない。
「……そうか」
……これ以上考えていても頭が痛くなるだけだと気づき、緑茶を口に含んだ。これも何かおかしいんじゃないかと心配になったが、特にこれといった特徴がないごく普通の緑茶だった。
「ん、何?あっしに惚れちゃって言葉も出ない?」
「いや、違う」
……逃げるのはやっぱり良くない事だ。檜の口からではなく、ちゃんと自分の口から伝えよう。
「しばらく、ここに匿ってはもらえないだろうか」
咲は猫背をぴくりと揺らし、笑顔を崩した。
「ふーん、気づいたか?」
「何の事だ?」
「気づいた奴はみーんなそう言うんだよなぁ。まぁそんなとぼけた顔じゃなくて……」
「__最ッ高に怯えた顔で言うんだけど」
咲の目は光が完全に消え、代わりに狂気が渦巻いていた。




