ROG:4-4/遺品同然
……ボクは彼女に何か悪い事をしていただろうか。
困らせはしたけれど、怒らせたり、悲しませる様な事は絶対にしない様にしていた。不必要な心配は、なるべく掛けない様にと努力もした。
……それでああ言われたのなら、ボクと言うヒトそのものが嫌われている、そういう事だろうか。
その答えを確かめる勇気も、方法も、ボクにはない。
千絋がいなくなっていた。
最低限の荷物だけを持って、どこかに行ってしまったらしい。
ボクはと言うと、彼女のいなくなった部屋で、『ごめんなさい』と書かれた紙を握っているだけだ。
「……やっぱり見つからないねぇ、あの子全然出掛けないし……行く所なんか見当つかないや」
開けられたままのドアから入ってきたネムなんて、どうでも良かった。
「まだ固まってんの?これで何日目だか。何も出さないヒトはいいよねぇ、お風呂にも入らずにずっと廃人してられるしさ」
「……別にいいだろ」
「リーダーが動いてくれなきゃ皆の士気も下がると思うんだけど。僕だってサボリのとばっちりはもう散々だよ」
ネムはこちらにやってくると、わざとらしいため息をついて肩をつっついてきた。
「……全部嫌なんだよ、ほっといてよ」
「それは無理な頼みだねぇ、毎年恒例・人間肉の市まで後3日でしょ?ほっといたら部屋がクロトの首でいっぱいになりそうだよ」
ボクの身体を抱きかかえようとしたらしいが、すぐに下ろした。ひ弱か。
「……無理に決まってるでしょ」
「無理でも今の僕はやらなきゃいけないんだよ。あんたを廃人から元の世界最強に戻せるの、僕ぐらいしかいないじゃあないか」
「おいこらネム、何言ってんだよ。あたしもいるっつーの」
いつの間にか入っていたらしい澪が、ネムの後ろに立っていた。
「時紅クン、ずっと千絋ちゃんの事探してるっスよ」
「……だから何」
「負けてて悔しくないんスか?」
「……勝ち負け以前の問題だよ、嫌われてるんだから」
そうでなければ、ここまで事は大きくならないだろう。
「嫌われてるんなら、この団に千絋ちゃんはいなかったっス。ずーっと6人でやってた……いや、この団はなかったとあたしは思うっス」
いきなりフードを引っ張られ、強引に立ち上がる形になった。
「なんだかんだ言っても、あたしらまだ子供じゃないスか。大人になるまでは、7人で1つだって、誰か一人が欠けたらダメだって、そう思うんスよ」
照れ笑いをして、澪はネムの顔を一瞥する。ネムがそれに頷き、前に出た。
「……探しに行こう、クロト。皆、あんたと同じ気持ちだから」
「勿論千絋ちゃんもっスよ。きっと見つけて欲しいに決まってるっス」
澪が肩を掴んだ。その手はかなり冷たくて、ボクは長い間彼女が外にいた事をすぐに理解する。
「ほら」
冷たさは温かさに変わって、ココロを支配していた氷を溶かした。
「……ああ」
「よしよし、それでこそ僕達のリーダーだ」
「うるせぇ!!偉そうな口叩いてんじゃねぇぞキツネム!!」
ネムが満足そうに頷くと、澪がフルスイングで彼女の頬を殴った。
「ちょっとバラしたらキツネキツネって……うるさいにも程があるねぇ!!僕はキツネでもカメレオンでもないよ!!」
「カメレオン……だっはは!!お似合いじゃねぇか!!ならカメネムか!!これじゃチキンでノロマになるな!!はははは!!」
「うるさあぁぁい!!」
「……たはは」
ボクが見ない間に、ずいぶんと仲良くなっていたらしい。ストレートな暴力以外にもちょっとした小突き合いが出ていて、少し笑ってしまった。
「元気出たっスか?」
コントをやめて、至極楽しそうに澪が問い掛ける。
「うん」
「その意気っス、今まで引き込もってた分頑張ってもらうっスよ」
二人して意地悪く笑うと、部屋を出ていった。
因果応報。まさか、自分の決めたルールに自分が痛い目に遭わされるとは思わなかった。
観念して、ボクもそれに続く。
……必ず連れ戻して、何が悪かったのか聞こう。それで、ちゃんと謝ろう。
改めて、そう決意した。
実は本日お誕生日なのです。誰も知ってる訳がない。




