ROG:3-FIN/絶望の翌日
「……ほい、どうやった?楽しかったか?」
「ああ……うん……楽しかった……」
楽しかったとか楽しくなかったとか、今のボクにそんなのはない。とりあえず、凄く眠かった。
「おい!!寝とるやんけ!!起きろあっしの嫁!!じゃないとママにするぞ!!」
「うるさい……」
耳元で喚く咲を殴りつけ、いつの間にか要塞と化した旅館の周りを見渡す。
……こうして見ると、あまりにも非現実的過ぎて夢でも見てるみたいだ。もしかしたら本当に夢かもしれない。
すっかりうるさくなった咲を皆が制止している中、ネムと澪だけはお互いに泣き腫らした目で、荷物を持ちながらうつむいている。よく見るとネムが手を握っているらしい。
……これを夢と言うのは、流石に二人が可哀想か。
「そう言えば、これどう帰ればいいんだにゃ?」
「組織内での恋愛は許可」と言うルールを作ろうとしていたのを、檜の言葉があっさりと止めた。
相変わらずの吹雪。そしてボクに向けられた目線。
「ええ……」
また面倒な事をしなくちゃいけないのか、と憂鬱な気分でいると。
「これ使えばいい話じゃねぇか」
いつの間にか、テトが黒光りする魔導バイクに跨がっていた。それに続いて、人数分のバイクがずらりと並んでいる。
しかし。
「テトさん……俺達、魔導バイクの免許を持っていません」
千絋が放った一言で、ボクはまた憂鬱の沼に足を踏み入れた。
「……ボクはもう嫌だ……コネを使ってでも逃げてやる……」
リストフォーンに登録したアドレスは30個ほど。大型車両の免許持ちはそこそこ。全員にメールを送れば、何人かトラックとかライトブレーンで来てくれる事だろう。
……『あいつ』だけは来てくれません様に。
そう祈りながら、救助要請に近いメールを送信した。
やがて、一台の大型トラックがボク達の前に止まった。
「ようクロト、私が来たからにはもう大丈夫だゾ~」
「とーしょくもきたなり!」
運転席から顔を出したのは……野獣沢。とうとう澪の舎弟になった21歳フリーター。言いにくいから、ボクを含めた一部はがるーざわと呼ぶ。
「はぁ……」
一番来て欲しくない相手だった。なんと言うか……
「すごいですをー、でっかいてつクズなりー!」
「ファッ!?どこ見て言ってんだバカヤロウ、あれ絶対要塞だゾ要塞」
……がるーざわではなく、彼女にくっついているちみっこい子がかなり話しにくいのだ。
小唐 洋々(おから ようよう)。通常ヨーヨーちゃん。水色の髪と弁護士スーツ、そして何よりも話し方が特徴的過ぎる女の子、6歳。
正直言って、ボクは彼女が大の苦手だ。苦手だが、残念な事に彼女のお気に入りになっているらしい。てくてくと歩いてきて、ヨーヨーちゃんは真ん丸い目をボクに向けてきた。
「クロトネキ以外にもいっぱいいるなり、わるいものなりかー」
「……あそこのハンマー持ってるお姉ちゃん以外は皆いい人だよ」
「これはいけない!しっかりつみをジカクしなさい!!こえなきこえに力を!」
「いや、そう言うのじゃなくてね……」
この子と接した人の大半は、この独特なテンションが一番苦手だと言う。子供好きな澪でさえ「?」マークが浮かびそうな顔をしていた。
……こうなったらさっさと荷物を運んで帰るしかない。
「ふぇっ!?お兄何するの!?」
ボクは無言で皆の荷物を奪い取り、(千絋の荷物を除いて)全て乱雑に運び込んだ。
「……早く帰ろう、ボクはもう疲れた」
恨み混じりに呟くと、
『お、おう……』
何故か皆は曖昧な返事をした。
例の二人は相変わらず手を繋いだままである。
いちゃいちゃしてないで早く乗れ、と叫びたくなるのをこらえてボクは荷台に乗り込んだ。




