ROG3-7/表裏凹凸
時計の音が耳にうるさい。自分の心臓の音はもっとうるさい。いっそ全部止まってしまえばいいのに……僕の中の僅かな非現実も、可能に出来るクロトが羨ましく思う。
「……格好付けてみたけど、本当やめとけばよかったなぁ」
別に、クロトの事を好きとは思っていなかった。僕は彼女……そう、澪に好意が伝わらない事につまらない怒りを覚えていた、それだけだ。
だから、男みたいに、誰でもいいから無性に傷つけてやりたかった。その対象になっただけだ。
どうやらクロトはそれを見抜いていたらしい。でも、何も知らない澪にそれを見られてしまった。
……凄く怖い。だって、好意を伝えても、彼女が好いているのは「寝無としての僕」だ。こんな僕には見向きもしないだろう。
……いや、それは後回しにして……起きたらまずどう言うかが問題だ。本当は女なんて言って信じてくれるだろうか……
「ん……」
膝の上でもぞもぞと動く感覚があった。そして数秒も経たないうちに彼女は目を覚まし、
「……バカ野郎」
起き上がったと思うと、何故か泣きそうになりながらそう吐き捨てた。
「バカ野郎……バカ野郎バカ野郎バカ野郎っ!!なんで、あたしの前でっ……あんな事してんだよっ!!あたしは……テメェの事好きだったのに……!!」
殴り掛かろうとしてきたので、どうにか脱力させるとそのまま抱く様な形になった。……恥ずかしい。
「……クロトに気があった訳じゃない。あと、凄く酷い事を言うけど」
深く息を吸った。それだけでは不安とか恐怖とかは全然収まらないけど、気休めにはなる。
「……僕は男じゃない。正真正銘、女だ」
「嘘、だろ」
認めて、くれないのか。
ああ、こいつがこんなんなら、いっそ僕も全部出して教え込んでやろうか。結果がダメだろうがどうだろうが、もう知らない。
……知りたくもない。
「誰のせいでこうなったと思ってんのさ、いい加減認めたらどうだい!?僕は……あんたみたいに生きたかったんだ!!でもあんたみたいになれないから、あんたがあんたらしく生きるための手伝いがしたかった!!」
「は……?」
「昔からお父様に酷い事されてたんだよ!!身体中いじられて……犯されて!!それでもあんたがいたから、耐えようと思ったんだ!!あんたがずっと正しく生きてくれるなら、それでいいって思ってたんだ!!」
澪が何か言っても気にしない。自分がぼろぼろに泣いてたって構わない。偽りを……正常をやめたヒトは、何よりも強いのだ。
「だから男のフリして生きてたんだよ!!でもココロは女のままだった!!女のままでも__」
「僕はあんたが……澪が好きだった……!!」
指の震えは止まっていた。こいつの近くにいられる世界が崩れない限りは、どうなってもいい。そう思っていた。
「くそっ……分かったから……泣くなよバカネム……!!テメェ、男のフリしてたんならもっと我慢出来るだろうが……!!」
「うるさい!!僕はあんたにっ、分かって欲しかっただけだ……っ!!」
「だから、分かったっつってんだろうが……バカ……」
結局夜が明けたって、全部が姿を現したって、何も変わりはしなかった。僕の知っている澪は、そのままでいてくれた。
明確な答えは返されてないけど……
__今は、それをココロから嬉しく思う。




