ROG:1-4/探索前に後一歩
そこは、RPGに出てきそうな洞窟や遺跡がいくつも連なっている所だった。
鋼の鎧を纏い、大きな剣を持った人、ラフな服装に樫の杖を持つ人が並んで歩く。そんなRPGのパーティーみたいな塊……『攻略者』達と、彼らに薬や武器を売る人達が往来する。過去の人達から見れば、非現実的な光景だろう。
ここは『迷宮多発地帯(ラビリンス・エリア)』。名前の通り、迷宮が多数現れる所だ。
……そこでボクはピンチになっていた。
「あれ?……み、みんなー!!『皇龍の牙』が全員揃ってる!!クロト様もいるよ!!」
「マジで!?あの『絶対王(トータルキング)』が!?」
「お、本当だ。……ははーん、さては記憶の迷宮狙いだな」
「ああやってのしのし歩いてると男にしか見えないよなー、あれで女とか信じらんねー」
「何言ってるの!?どこからどう見ても女の子でしょ!!『病白(びょうはく)』の寝無みたいにコテンパンにされたいの!?」
「……ボクが出歩くの、そんなに珍しいかなぁ」
人が大勢いるところではいつもこうだ。変な信者がたくさん集まってきて、ぎゃーぎゃー騒いではサインを要求してきたりする。けど、澪や時紅が威嚇しているので要望には応えられない。応えるつもりもない。
「そんなに目立つ様な事はしてないつもりなんだけどなぁ……」
「世界最強って言われるぐらいの力を持つ……そんな異能者に注目しない奴なんてごく少数に決まってる、だから目立つ。これ当たり前の事だよ、マスターは本当馬鹿だよねぇ」
「それぐらい知ってる」
生意気にも寝無が馬鹿にしてきたから、すかさず彼の鳩尾(みぞおち)を殴る。生傷だらけの顔は、「人類絶望」と書かれた仮面で隠されていた。
寝無は人前ではいつもこんな仮面をつけ、ボクの事を「マスター」と呼ぶ。理由を聞くと「その方が性に合う」らしい。そういう趣味のないボクには、変態にしか見えない。
「お、お兄……トランの言ってた奴って、あれかなぁ?」
人混みが怖いんだろう。淋は少し泣きそうになりながら、左にあった遺跡の様なモノを指さす。
看板には赤文字で「これより記憶の迷宮 難易度:★☆☆☆☆」と書かれていた。
「うん、これで間違いないみたいだね。……行こう」
「はいはーい。テメェら、ドンの邪魔になるんで退いて欲しいっスー」
『了解です姐さんっ!!』
澪のウザそうな声で、何百人もいたギャラリーは道を開けた。
「……はぁー疲れたー……これでもう大丈夫だろ」
「……時紅の馬鹿……大丈夫なら早く……手、離して」
後ろで小さく声が聞こえた。「こんなとこでいちゃつかないで欲しい」とは思うけど、あえて無視しておく。
……最早付き合っているも同然な状態なのに、まだ付き合ってない。それがなんかこう……
「ボスー?何してるアルか?早く行くネ!!」
気がつくと他の皆はずいぶん先に進んでいる。ボクをさしおいて先に行くなんて事は滅多にないし、それだけ楽しみにしていたんだろう。
「あー、今行く!!今行くから!!」
「「!?」」
その場から動く気配もない時紅と千絋を引っ張りながら、ボクは記憶の迷宮へ走り出した。