バケモノと敵わない悪
フェンスに囲われた外を見て、思わず目を見開いた。
「嘘……だろ……!?」
プロペラが付いた無数の黒い塊が、赤く輝きながら黒い空を飛び回っている。
ハンドボールの様なそれらは、細いアームに銃を搭載していた。
上だけではない。その周りにも、警備ロボはいた。4m程のヒト型で、収容施設で見た奴とは段違いな大きさだ。
そいつが3体ほどいて、腹部からあの飛行するボールを吐き出している。
そこから出たボール型の警備ロボは一角に集まっていて、時おり中心で爆発が起きていた。
想定していたモノとはかけ離れていたけど、やっぱりこの光景は地獄にしか見えない。逃げ出したくなった。
「こんなの、一体どうすれば……」
まさに呆然と言った様子で、千絋ちゃんが言葉を溢した。
……そうだ、どうにかしないといけないんだ。まだ、逃げてはいけない。
「落ち着いて。……物理攻撃は効かないだろうねぇ。でも魔術は効くと思うんだ、君はあいつらがこっちに来ないか見張っててくれるかい?」
「何をするつもりですか」
千絋ちゃんに笑いかける。怪訝そうな顔が一層疑問に歪められた。
「……儀式さ。それもあの鉄クズをまとめてふっ飛ばして、ここにいる奴らを数年ぐらい掛けて根絶やしにするための、とんでもない奴。それぐらいしか、ここを切り抜ける方法はないからねぇ?」
禁断とされた魔術、「ドグラ・マグラ」。
八王子は今でこそ大病院を経営している名家だが、高名な魔術師を数多く輩出してきた家系でもある。それなりに闇もあり、多くの犠牲の下に生み出された魔術がいくつかあった。
ドグラ・マグラはそのひとつで、供物を使って発動させる。広範囲に渡り衝撃を放ち、発動後も生きていた生き物は記憶障害を引き起こすと言う「ゲンバク」に似た攻撃魔術だ。
一度発動すれば代償を払い続けるのと魔力がある限り何度でも使える。
僕は以前、これで京都を滅ぼした。
その時払った代償……「永久の覚悟」は覚えていない。ドグラ・マグラを発動した事は覚えているのに、覚悟の記憶だけがすっぽりと抜けていた。
だから、僕は覚悟が何なのか分からないのだ。
「……千絋ちゃん、覚悟って何だと思う?」
年下にモノを尋ねるなんて、馬鹿馬鹿しいしどうかしている。それでも今は一大事だ。幸い、僕は易々とプライドを捨てられる奴だった。
小さく首をかしげた後、千絋ちゃんは僕の問いに答えた。
「……例え何が降りかかろうと、その道を歩み続けると言う意志……ではないでしょうか」
なんだかおかしくて、つい笑ってしまった。
「……君、本当に子供?」
「え、はい……11、ですけど」
「そう。……うん、何でもない。見張り戻ってて」
……次の瞬間、激しい揺れと轟音が襲った。
警備ロボ達は動きを止め、上空にいたのも全て強風で叩き落とされる。建物のいくつかはロボの爆発で倒壊した。
「何なんだよもう……!!」
瓦礫を避けるためにがむしゃらに走り、辺りを見回した。
「何だ、あれ……」
同じ様にした千絋ちゃんが、また言葉を溢す。
刃の様な翼を持った黒い龍が、今まさに地面に降り立たんとしていた。




