ROG:3-5/絶対王、その片鱗は
「って訳だけど……どうしたの、クロト」
さっきの事もあって、正直ネムの話はあまり頭に入って来なかった。
最近、人間の事を考えるといつもこうだ。ジギーに乗っ取られそうになって、意識だけの戦いを長い間強いられる。そして段々疲れてきて、少しの間負けてしまう。話すべき時は、多分今なのだろう。
「……うん、やっぱり話す必要があるね」
「へ?」
情けない声をあげたネムを見据える。
「ボクは多分、その永久機関って言うのを移植される前から……既に甦っていた、かもしれない」
7歳の頃、ボクは『塾』にやってきた、実の父を名乗る「自称盲目」の男に引き取られた。
名前は「禄喪(ろくそう) ケイ」。ボクが捨てられる前の姓は「死々王」。それをちゃんと知っていたらしく、塾にきた時は死々王の姓を名乗っていた。
実の父についてボクが知っているのは紅い目だけ。そして男の目は閉じられていて、何色かも分からなかった。
出来る事なら塾にいたかったけど、復讐したいと言う気持ちはそれよりも高い位置にあった。実の父か確かめて、本当なら殺さないといけない。そんな思いで、ボクは渋々ケイの車に乗り込んだ。
……が、やはり甘かったらしい。スプレー缶を突きつけられ、睡眠ガスを吸わされたボクはあっさりと意識を失い、気がつくと檻の中にいた。
その時の事は、鮮明に覚えている。
コンクリ床の氷の様な冷たさ。
鉄格子とはまた別の、とても濃い鉄の臭い。
有棘鉄線で縛られた痛み。
……そして、ボクを捨てた奴……「夜夢(よるむ)」の紅い目。
__よぉ、我が娘。こうして再会出来た事、光栄に思うぞ。お前もそうだろう?
そんな事を言って、彼はボクを檻に放り込んだ。
……で、1年間檻の中で暮らした訳である。まぁ檻と言えども、ヒトらしい生活を送る上で必要最低限のモノはあったし、時折お兄ちゃんやお母さんに外に出してもらった事もあった。
その時は楽しかったけど、夜夢がきた時は最悪だった。
言葉にも出来ない様な、むごたらしい虐待を延々と繰り返し。夜から続き、朝までナイフで切りつけられる事もあった。
奇妙な事に、いつしかその傷は1日もすればほぼ完全に治る様になっていた。多分、それが不老不死の兆候……みたいなモノだったんだろう。
でも、ボクは殺された。
秋の夜、今まで感じた事もない様な痛みで目を覚ますと、腕が無くなっていた。
夜夢だと確信して見上げると、そこには紅い月……いや、眼。
それが生前の記憶で、ボクはそのまま死んでいくハズだった。
「……で、いつなの。ジェノバ機関の改造も無しに生き返ったのは」
「さぁ。日付なんて分からなかったけど、変な所にいたよ」
変な所と言っても、迷宮とさほど変わりはないだろう。
ただ違う所は、黒くて、白くて、
……あれ、何だっけ?




