反撃以前に何もない
閑散とした階段を降りて、1階に降りた。警備ロボはいないが、クロトもいない。非常事態だから間違いなく入口は封鎖されているだろう。早いうちに非常口から逃げると伝えておけば良かった。
唇を噛んでいると、くいっ、と白衣の袖を引っ張られた。
「どうしたの、千絋ちゃん」
「……あの人、どうするんですか?部屋に入ったら部下が問答無用で殺されたって、人間に聞きました。……実際に見たりもしました。戻ったとしても、殺人鬼になるだけなんじゃ……」
「それはないよ、クロトは強いからねぇ。何が正しくて何が悪いのか。そして自分はどちらに属して、何をしたら良いかを考えられる様になれば悪い事はしない。そしてそれを考える時が今だよ」
「……?」
「何言ってるか全然分かんねー……」
2人揃って首をかしげていた。
確かに自分でも少し難しい話だった。
「……いつか分かるよ、でも覚えといて。『クロト』は無意味に人を殺さない。殺すのはクロトに取り憑いた悪い奴だ」
……クロトは変な所で優しい。何の罪もない、『表の世界』の人間や異能者を殺すなんて有り得ない。ジギーもそうだ。
「……さ、迎えに行こう。クロトを置いて行ったら、僕は約束破りの悪い人になってしまうからねぇ」
爆音が収まり始めていたけど、何かおかしい。
がしゃ、がしゃ、と言う警備ロボの足音はまだ聞こえるし、あろうことか音の数は確実に増えている。
その足音の中に、声が混じった。
「なんで……使えない……!?」
……まさか。
「そこで待ってて。助けに行く」
「待って下さい」
「悪いけど断る。僕は彼女を見捨てて……」
「だからこそです。音からして、ただの異能者1人でどうにか出来る量じゃない……俺と時紅も行きます。丁度彼も武器を作った様ですし」
いつの間にか、彼の手には巨大な剣が握られていた。
それも、ただの剣ではない。銃が取りつけられている。……「大銃剣」、とでも呼ぼう。
「あいつら、『あっち』じゃ珍しい素材で出来てたからなー……溶かしたかいがあった、うむ、勝てる」
自分の背丈の何倍もある剣を苦もなくぶんぶんと振り回し、満足そうに頷いた。
「……えっと……それ、どうやって作ったの?」
「野郎に教える義理はねーぞ」
相変わらずの冷たい反応だ、泣きたくなる。化けの皮剥ごうかなぁ、と真剣に考えそうになった。
「こら、時紅!助けてもらっているのに失礼だろう?
……あの、すみません。彼の能力は見たモノに熱を加えたり燃やしたりする事が出来るんです。熱いのも平気らしくて、一般区域に来る前は毎日の様に武器を作っていました。……ほら、謝る!」
「……」
銃声が立て続けに耳を叩く。恐らく、クロトのモノではないだろう。複数人で撃っている感じだ。
「謝らなくても良いよ。今は、クロトの所に行くのが先決だ」
白衣からずっしりと重い太い棒を取り出して伸ばし、棍の様にする。先についていた突起を押して更に4つの刃を出し、それを展開して風車の様な形にする。
……卍鎌。両親を殺すためだけに作らせた武器だけど、まさか別の用途で使う事になるとは思わなかった。
「さて、ここからは人助けの時間だ」
思わなかったけど__悪くない。




