覚悟なき子ら
「……まずっ……逃げるよ!」
時紅と千絋ちゃんの手を引き、病室を出る。
「……嘘、だろ……」
機械の群れが廊下を埋め尽くしていた。
幼児の背丈ほどの黒い長方形に、赤い目の様なセンサーが付いているだけの適当な風貌の__どうせ死目がデザインしたのだろう__それらは、うぃん、と音を立てて一斉にこちらを向く。
「……君ら、機械相手ならいけるよねぇ?僕、脱出経路は分かるけど機械とは……」
まだ全文を言い終えないうちに、あちらこちらでバチッ、と電気が鳴いた。
「知ってる」
機械の群れを一瞬で突破したクロトが、冷たく言った。
時間がゆっくりと流れていく。ふと、そんな感覚に襲われた。
……いくら異能者でも、これはまともに受けたら死ぬよねぇ……
まさかこんな所で、と思って身を屈めてみた。何をしたってどうにもならないのは分かりきっていたけど、そこにない可能性を信じたかった。
……直後、鉄片を伴った爆発が立て続けに巻き起こる。
ああ、僕もここで終わりかと目を閉じた。
しかし、熱さも痛みも感じない。
「……何とか、出来た」
千絋ちゃんが、目の前に立っていた。
庇う様に広げられた両腕を見ると、手首から先が変形して、分厚いドームとなって僕達を覆っている。
「追っ手が来てもおかしくない。早くここを出よう」
クロトが言って、廊下を殴りつけた。
禍々しい光が拳を包み込み、新たな轟音と共に穴が生まれる。
なるほど、そうやって下の奴らを集めて潰すと言う訳か。足場が悪くなるけど、クロトの力なら、道が良かろうが悪かろうが関係無しに先に進めるハズだ。
がら空きの廊下を走り、僕は思い出した様に言う。
「憎んでるのに……助けてくれたんだ」
「……何でこんな奴助けたんだよ」
時紅の言う通りだった。初対面があまりにも酷かったから、てっきり時紅だけを守るんだろう……と思ったけど、意外だ。
「……確かに、貴方は憎かったです。けど……昨日の夜、落ち着いて考えました」
力無く笑って、息を弾ませながら千絋ちゃんは続ける。
「俺達の事は、もう取り返しがつかないんですよね?悔やんだって前に進めないんですよね?……だったら、悔やむ必要も、憎む必要もない」
「……君、は」
「『むやみやたらに人を憎んではいけない、憎むのは「2つ」までで良い』って、人間だった頃お母さんから聞きました。……だから、俺は貴方を憎みません。憎みませんが、やった事はとても悪いので許しません」
「……ありがとう」
「礼をする必要はありませんよ」
『甘過ぎる』ではなく、優し過ぎる、と思った。
それほど、彼女の言葉は慈愛に溢れていた。あのバカ澪にも見習って欲しいものだ。
きっと千絋ちゃんは、僕と違って良い母親に恵まれていたのだろう。
少し羨ましく……いや、憎く思った。




