ROG:1-3/不穏因子
自分の部屋に戻って、色々と考えながら準備を進めていた。
そこに何があるのだろう。
そこで何を知るのだろう。
……そこは面白いと思える場所なんだろうかと。
数分後……フード付きのコートを羽織い、何も入っていないんじゃないか? と疑うぐらいに軽いリュックを背負う。
「これで準備完了だ」
ドアの近く、微かに青い輝きを放つ円……転移式(ワープサークル)に足を踏み入れると、
「……まだ皆来てないか」
乾いた風を頬に感じる。次の瞬間には外にいた。植物はほぼ見当たらず、ごつごつした岩ばかり。乾燥した大地は、所々まるで竜に噛まれた痕みたいに抉れている。
振り返ると、山の様にそびえる黒い門が風景を隠していた。
足元を見ても転移式はない。あらかじめ一方的にワープする様にしてあるからだろう。
しばらく道の邪魔な石ころをどかしていると、ひゅん、と風を切る様な転移音と共に、大きなリュックを背負った時紅が現れる。
「……今度は早かったみたいだなー……」
脱力しきった声がかかる。聞いてるこっちもやる気が削がれそうだ。
「まぁね。……時紅は何でそんな大荷物なの?」
「……さぁ。よく分からん……でも千絋がやってくれた、だから持ってる」
……もしかして、二人分持ってるのかな。千絋も一応恋する女の子だし、何かを共有していたいとかそういう気持ちがあるのかも。
「……皆来たぞ」
立て続けに鳴る、風を切る音。これで全員揃ったみたいだ。
「揃ったね。……じゃあ、出発の前に……」
準備中に調べた迷宮の情報をまとめると、名称は『記憶の迷宮(メモリアル・ラビリンス)』。位置はここから北西に進んで10分。強力なクリーチャーがいるので、最奥部には何かが眠っていると思われる……だそうだ。この事を皆に伝えると、一層楽しみが増したと言う様な顔をしたけど……
「……」
千絋だけは何故か難しい顔をしていた。
「どうしたの、千絋」
「いや……何でもない。ただ……妙な噂を聞いてな……」
「妙な噂……って?」
「……今から行く迷宮の名称は『記憶の迷宮』と言っただろう?そこの……」
少しの間。
「最奥部では思い出を蘇らせる核(コア)がある、と……」
苦しそうな顔をした。彼女は思い出したくない事ばかりなんだろう。
実質、この組織のメンバーは程度は違えど全員訳ありだ。大切な人を亡くしたり、酷い環境で育てられたり。
勿論、ボクもそうだ。けど……
「大丈夫。どうせ噂でしょ?心配しなくても、ボクが壊すからさ」
過去の苦しみに囚われるのは……
ボク1人で、十分だから。
「……姉貴……」
「ほら、ぐだぐだ話してても時間の無駄でしょ。早く行くよ!」
強引に話を終わらせると、前を向いて歩き出す。
「それぐらい平気だ」なんて、思ってる訳がないけど……
進んでいくしかないんだ。