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BORDER:ARRIVE ~絶対少女と不可視の境界~  作者: GAND-RED
ROG:3/真偽はガラスケース越しに
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資格なき王

クロトと一緒に歩く中で、ふと千絋ちゃんの事を思い出した。

「『利用されたくない』、か……ねぇ、クロト」

「何?」

「2階に行ってくれないかな、ちょっと」

ここまで言った所でぎりっ、と睨まれた。

「死にたいのか?」

「いや、そんなんじゃなくて。わざわざ僕に会いに来て、利用されたくないって言った子がいたから……助けてあげられないかな、って」

僕が必死に言うとクロトは顎に手を当てて黙り込み、やがて頷いた。

「……手短にな」

「うん」

ぽつぽつと並んだ赤い電灯は、ちっとも暗い廊下を照らせていなかった。

使えないしチカチカする、と懐中電灯を頼りに動こうとすると……

「誰だ?」

「……っ」

息を潜めて近くの壁に隠れる。

懐中電灯の電源を切って、視界が再び中途半端な闇に染まった。

何でもない足音は危機になるととても恐ろしく、一歩、また一歩と近づく度に寿命がすり減っていく様な気がした。

「ふん」

いきなり僕の前に出たクロトの目が、ギラリと光る。


その刹那、びしゃ、と何かが飛び散った。

僕も色々と『訳あり』だ。顔に掛かった生暖かい液体を血だと理解するのに、時間は掛からなかった。

恐る恐る目を開くと、上半身と下半身を半分にされ、腸や骨を露にして崩れる男がいた。

「やーれやれ、いちいち変わって欲しいとか言われんのだりぃなぁ。こっちはさっさと殺りてぇのによ」

「……クロト?」

乱暴な口調に戸惑いながら声を掛けると、

「あぁ?」

彼女はナイフについた血を舐めながら振り向いた。

紅い目の光は陰って、よく見るとうっすら十字架が映っている様な気がする。

「……えっと」

「俺が気になるか?いい目してんなぁ、お嬢ちゃん。俺は『ジギー』、臆病・弱虫・面倒臭いが極まったあのグズの『剣』で『盾』だ」

「ふーん……」

動揺を抑えてつまらなさそうなフリをした。

女だと見抜いた、と言う事は……能力が効かないのか。敵じゃなさそうだから良いけど、本当の姿を見られるのは久しぶりでとても気持ち悪い。

「まぁ、こっちにゃあ長くはいれねぇんだよなぁ。『第二の器』がねぇと、スイッチとか出来ねぇんだ。で、もうじき時間切れ。じゃあなぁ、牛乳みてぇなお嬢ちゃん」

ジギーと名乗った彼(?)は、見開いた瞳を閉じた。どうやらこれでおしまいの様だ。

……クロトは二重人格なのだろうか。彼女の資料にも「快楽的殺人者になる可能性がある」と書いてあった。

……けど『第二の器』って何だ。人格にそんなのが必要だなんて聞いた事もない。何かが取り憑いたのか……

「おっと!」

考え事に夢中でクロトの身体には気づかず、そのまま地面に落ちそうになっていた所を慌てて受け止める。抱えて階段まで歩いた所で、彼女はゆっくりと目覚めた。

「__あ、れ?」

「やぁ。……意識が飛んだ後の記憶は?」

にやけながら尋ねてみる。

「……ない。でも、キミには危害を加えていない」

自分の服についた血や遠くに倒れている死体を見ると、むっとしてクロトは小さく答えた。

「なんで分かるの?」

「いい人だ、と思ったから。……ボクがああなる可能性は知ってるハズ、なのに……表立って化け物扱いをしなかった、と思って」

更に声は小さくなり、段々アホ毛がしおれていく。顔からは今にも湯気が立ち上りそうだった。

「……うん。いい子だねぇ、じゃあ付き合ってもらおうか」

くしゃっと頭を撫でて、階段を登り始める。



「……」

「あー、痛い、痛いってば、さっきのはそういうつもりじゃなくて」

後ろからぺちーん、と背中を叩かれる。全然痛くなかったので、手加減してくれたのかぁ、と少し和んだ。

おいネム、危機感どこやった。

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