救済出来ないヒーロー
「……ん?八王子さん、こんな時間に外出ですか?」
「ええ、クロトに呼び出されたんですよ……もうここには帰って来れませんね」
「そう、なんですか……今までの事、本当にありがとうございました」
……ちょろい。
荷物とある程度の資料を集めて、手持ち無沙汰に見える様に相手を操る。勿論姿は今まで通り、男のまま。
無理があると思ったけど、案外すんなり出来た。
ここに来る前までは自分の容姿、後ノートなどの小物ぐらいしか上手く偽装出来なかったのだけど、やはりあの心臓のおかげだろうか。
とにかく、結果的に役に立ったと言えるのは確かだ。感謝しておこう。
「……よし、行きますか」
収容施設までは徒歩で数分。わざわざ車で行かずとも余裕だ。
カードキーを使って中に入り、見取り図で他の病室も見ながらクロトのいた部屋に向かう。
「……準備は出来てるみたいだねぇ」
「当然だ」
クロトはナイフと銃を持っていた。恐らく研究員から奪い取ったモノだろう。被験者全員に付けられる、識別と監視を兼ねたチップは粉々になり、原型を留めていない。
しかし気は抜けない。監視カメラがあるからだ。
僕の能力は、機械相手に通用しない。
自分の髪はここに来るまでに短くしているが、バレるかもしれない。
「……クロト、ジャミングって……」
「生憎機械には疎くてね。でも……」
クロトはゆっくりと僕に右腕を向ける。
次の瞬間、僕の真逆にあったカメラが物凄い音をたてて壊れた。
「『一瞬以上の速さ』で壊せば、問題ないだろう?」
……なるほど。バレた所でそれが何だ、殺せば良い話だろう、と言う事か。
「……えーと、僕の信用性が崩れるとか考え」
「どうせ逃げるなら何をしたって良いとは考えないのか?」
随分キツい即答だった。
「でも戻って訴えるための証拠品とか」
「なるほど、キミは死にたいんだな」
「……はい、諦めます」
断られている僕からしてもいっそ気持ちがいいほどの速さで、この王様はお答えなさった。
「わざわざ訴えて大事にする必要はない。全滅させればいい話」
「……追っ手とか来たらどうするの」
「殺す」
話は聞かない、おまけに脳が筋肉ときた。なんて子だ。
「僕の能力は機械相手には効かないんだよ、『この区域(くに)』はただでさえ機械が多い……」
「だから、壊せばいいじゃないか。本当はキミ、現状はそれしか思いつく方法がないんだろう?方法を考えてもまた人間に縋るだけだ。覚悟を決めろ、ここでボクに殺されるか、異能者側に寝返るか」
……お父様には、逆らいたくない。
でも、僕としては異能者側に寝返りたかった。
澪の様になれなくても、本当の姿で澪の側に居れなくても、自分なりに自分のやりたい事がしたい。
そう……なんと言うか、もう少し気軽に、人に嫌がらせしたい。
「……分かりましたよ、全く……」
強引な王様に恭しく礼をした。
そして、僕は歩き出す。
黒から、白へと。




