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『僕がここに来てからもうすぐ1年が経つ。外は相変わらず四季が無くて、今が秋だと認識するのに少し時間が掛かった。
クロトをはじめとした異能者の改造は、これまでにないほど順調に進んでいる。肉体改造に成功した被験者が1人出てきた。名前は千絋と言うらしい。以前とは違い失敗してもクリーチャーにはならず、強化兵として利用出来る程度の力はあった。
今や組織の人間は、僕の言葉通りにてきぱき動く様になっていた。死目に対して、少し罪悪感がある。
今日で研究を始めて1年経つと言うクロトの方は、あの調子だと明日で肉体強化は終わるといった具合で改造が進んでいた。しかし問題は……
『刃蝕彗皇(アスラ・レギオン)』からどうやって永久機関を摘出するかだ。
いつ駆り出されるか分からない。自分の身体も強化しておく必要がありそうだ。
……なので、研究用にと持ってきた妖狐と言うクリーチャーの心臓を解凍して食べた。クリーチャーの心臓は、食らうとそれなりの力が備わるらしい。良薬口に苦し、みたいな感じで酸っぱくて不味かった。後、凄く気分が悪い。そんな状態でこの文章を書いたが、明日も生きていられるだろうか。これが最期の言葉にならないだろうか。これで明日生きていたら相当恥ずかしいけど、一応書いておこう。
……お父様、お母様、僕は自分の手で自分の娘を汚した挙げ句利用した、最早親とも思えない貴方達を死んでも許さない。
僕にこんな感情を抱かせた澪の事は嫌いだったが、本当に感謝している。
ありがとう。そしてすまない。
あんたのお姉さんは、多分病気だ。』
震える手でペンを置き、ふらふらしながらもなんとか洗面所に向かう。
「……っ!!」
そして吐いた。
全てのモノの輪郭がぐにゃりと歪んで見える。狭まった視界は、毒霧の様な薄い紫に染まっていた。
「……本当に……無謀な事しちゃったよねぇ……がはっ」
心臓に強い圧迫感。
これまでにないぐらい息苦しい。
足も麻痺し始めて、上手く歩けている確証もない。
永久機関と言うと、この心臓とその他の部位を欠陥した箇所に移植するというモノだ。
きっと、僕の痛みなんかとは、比べ物にならないほど苦しむだろう。
……ああ、死んでるなら、痛みも何も、ないか。
でも……痛みがあるのって、本当に不幸?
床に倒れ込む。もう何が何だか分からない。三途の川でも見てしまうんだろうか。
中学校に通う前に死ぬなんて、微妙だし抵抗があるなぁ。
……そんな事も考えられずに、クロトは死んだのだろう。
もう少しだけでも生きたかったと言う後悔のひとつもせずに、自分を傷つけた相手に対する憎悪も持てずに、ただ残酷に肉を抉られて死んだのだろう。
果たしてそれは……最高の幸せなのか、最悪の不幸なのか。僕には、よく分からない。
__少し、聞いてみたい。
意識にぼんやりとした霧が掛かる。とても眠い。
こんなもやもやしたモノが、僕の最期にならなければいいのだけど。




