ROG:3-4/朽ちた狂気
「……クロト、大丈夫?」
人体改造……厳密に言うと永久機関の話をし始めた辺りから、クロトは酷く顔をしかめていた。
まるで目の前に機関の人間を見ているかの様に、金色の瞳は憎悪をはっきりと映している。
「あいつら……緋煉も……ルートも、殺したのか……!!」
「……?」
「咲も……檜も、あいつらに、殺されたんだ……だから、あんなに……」
おかしいんだ。
クロトは自分の幼馴染みについて、そう言った。
けど、その声には貶したり嘲笑ったりといった悪意は1ミリも見られなかった。
どちらかと言うと、自分がそんな風にしてしまった。そんな感じの後悔が、滲みに滲んでいる。
殺されたからおかしい。ならお前も相当おかしいハズだ、と一般人は言うだろう。
しかし僕も関係者だ、彼女の言葉の意味が分からない訳ではない。
前に聞いた事がある。咲は快楽的殺人を繰り返すシリアルキラーで、女だけを殺し花や結晶にしてコレクションしている、と。
それは本当だった。実際咲に呼ばれたクロトについていって部屋に入ると、板を壁につけただけの簡単な台、そこに並ぶ瓶の中に、花と結晶が入っていて……彼女はそれを「自分の一番好きなモノだ」と言って、しばらく狂った様に笑っていた。
檜は精神世界の時間が止まってしまった。もう汚れる事も、成長する事もない。
性交渉とか闇金とか、純粋を黒で汚す様な発言をすると、拒絶反応か何かなのか、その場に崩れ落ちて小さく震えていた。そして次の瞬間には、話した内容を忘れている。どう言う訳か、咲だけは例外だったけど。
僕が担当したのは、彼女達ではなくクロト。
違う部門で、彼女達は人体改造を施されていたのかもしれない。
もしかしたら、他の研究材料として使われていたのかもしれない。
……しかし、答えは後者だろう。
「……僕が見た結果の中に、あの子達の名前は無かったよ。……でも……」
緋煉とルート。その2人の名前は、研究結果の一覧にあった。
2人共失敗で、ルートはヒトの姿を留めたまま死んだ。そして緋煉は……
機関が別世界に閉じ込めておかなければならないほど、凶悪なクリーチャーになった。
やっとの思いでその事を伝えると、クロトは完全に憎悪に飲み込まれた。
「……殺してやる」
「機関の奴らも……一般区域の政府関係者も……」
「いや……人間だ」
『__ニンゲンを』
「しっかりして……っ」
抱きしめ、耳元で囁く。肩を小さく震わせて、力が少し抜けたのが分かった。
「……ボク、は?」
一瞬だけ見えた瞳は、血の様に紅くて……
どす黒い十字架を刻んでいた。




