記録:3
『何と言うか、色々と衝撃的な1日だったと思う。
死目の監督の下で作業をした後、いきなり呼び出されて極秘研究室に入った時は自分も死んでしまうのかと思った。
得体の知れない液で満たされた水槽に、僕とそう変わらない歳の女の子が入っていたのだから無理もないだろう。
どうも死目はネクロフィリアと女好きの気があるらしい。
あの資料の最後に書かれていた『界蝕者(コネクター)』について、そして塗りつぶされていた所も話して、死目はさっさと自分の研究に戻ってしまった。
もしかしたら僕が女である事がバレているのかもしれない。
……対策は後で考えるとして。
彼女はクロトをベースとした『界蝕者』……完璧な人造人間、「黒棺(くろひつぎ) クウ」を造ろうとしているらしい。
最終目的は「異能者の協力を不要としたクリーチャー撃滅部隊の結成」と資料には書いてあったが、間違いなく嘘だろう。
その「クウ」をベースに、また人造人間を造って侵略するに違いない。
何でもありで、異常を娯楽として認識している。そんな風に狂った、不可解な事にまみれた国。それが異能者区域、僕が好きで住んでいる所なのだ。
理想を現実にしているこの状態を、崩されてはいけない。
日記にしてはずいぶんと長い文を書いた。明日は本格的に実験に参加する事になるけど、またこんな風に長く書いてしまうのだろうか。』
「……」
切り取られた様に黒い窓から外を覗いてみる。同じ様な黒い建物ばかりで、空との区別が全く付かなかった。
当然だが、この国(と言っても異能者区域と一般区域は別の国扱いだが、一応両者共に日本の名が付く)にいる限り星空を見る事はない。月だけが浮かぶ、どす黒い夜空と共に過ごす定めだ。
愚かな先人共が破壊した自然環境は、内戦の終結から100年近くたった今でもなお本来の姿を取り戻していない。
核兵器の乱用によって汚染され、浄化しない限りは川の水もまともに飲めないし、黒い雨さえ降るのが現状だ。
……ただでさえ狭い土地をまともに住めなくした人間も愚かだが、そいつらに協力した異能者も愚行が過ぎる。
人間を疎むなら、協力もせずに滅ぼせば良かったんだ。
そうすれば、僕だって汚されなくて済んだのに。
あいつ……澪みたいに、普通に、まっすぐに生きていけたハズなのに。
……らしくない。今更後悔したって無駄だ。それに、どんな奴も澪の様にはなれない。澪は澪だ。僕は僕だ。
どちらにせよ、こうなるのは決まっていただろう。
__僕は偽る。愚かなヒトを見下すために、あいつの信念とやらを見守るために。
……どうせ、そのための能力なんだから。
……アッ、この書き方失敗した……おや、誰か来た様だ\アッー♂/




