ROG:1-2/定例会議
階段を降りてまっすぐ進み、2つ目のドアを開ける。
白い長テーブルと黒い椅子がいくつも横に並べられ、端にはご丁寧に最新型のテレビまで備え付けられている。奥の方に大きい厨房があった。
ここが食堂だ。
「やー……皆、おはよう」
厨房周辺のテーブルについていた4人が一斉に振り返る。
「おはよっス。……ドンにしては遅かったっスね……さては寝坊したんスか?」
……どうやらちょっと遅刻だったらしい。
まだ少し眠そうにしながらも、真っ先に声を掛けてきたのは澪……桐原澪(どうばら みお)だ。異能者の特徴である灰色の目に白い髪、けれど少しでも目立つためか前髪を青く染めている。セーラー服の上には白ランを羽織り、スカートのベルトには剥き出しの木刀と鞘に入れられた刀を吊り下げていた。
「脳足らずが何を言ってるのかなぁ?クロトが早起きなんてする訳ないじゃん……あ、クロトおはようー」
人を馬鹿にした挙げ句それを何とも思わず当の本人に挨拶してきた本当の馬鹿は八王子寝無(はちおうじ ねむ)。澪と同じく灰目に白髪、けど一応風紀委員だからか髪は染めていなかった。愉快そうに歪められた顔には生傷がいくつもある。左目は眼帯に隠れて見えない。第1ボタンまできちんと閉められた白ランに付けた「風紀」と書かれた赤い腕章が、全身白になる所を辛うじて引き止めていた。
「あんだとぉ!?」
「本当の事でしょうが!!」
まだ朝だと言うのにいきなり取っ組み合いを始める二人。
この二人は幼なじみで、小中高と同じ私立の学校に通っているけど評判はまるで真逆だった。澪が仁義に厚く様々な人に慕われている不良のリーダーなのに対して、寝無は人を馬鹿にするのが大好きでありとあらゆる人に嫌われている風紀委員長。更に仲の悪さもあいまってこの二人の喧嘩が学校の名物になってしまっていた。本当に私立の高校なのかな、とボクは心配になる。
「こーらー、朝から喧嘩しないの。ほら、淋からも何か言ってあげて」
朝一番から仲裁するのは面倒なので、隣で大人しく座っていた女の子に全てを任せる事にした。
「ふぇっ……!?……え、ええと……何で毎回そんなつまんない喧嘩してるのか…ちょっと分からないからやめて欲しいな……」
毛先に行くにつれて青くなる白い髪。今にも泣きそうに歪められた、透き通る青い目。黄色いパーカーに緑のぶかぶかしたズボン。ロリコンがこぞって集まりそうな容姿だ。
彼女は氷之裏淋(ひのうら りん)、澪によくくっついてる泣き虫さん。メンタルが弱いのがたまにキズだけど、言う事もよく聞くし素直で良い子だ。
「……ダメ?」
「「スイマセンデシタ」」
彼女は二人の喧嘩を止めるのが大得意。ボクに教えられずとも二人に涙目で謝らせるぐらいだ。
よくここまで上達したなぁ、と思いながらその様子を眺めていると、肩をつつかれる。
「……もう食べていないのは姉貴だけだぞ。ほら、早く」
朝から馬鹿丁寧に説明するのも疲れました。彼女は夜城千絋(やじょう ちひろ)。全体的に髪は白いけど前髪の一部分だけが銀髪。後ろでくくっている。右目は失明しているらしい。服装はブラウスにベスト、膝丈の黒スカート。ボクと血縁関係はない。以上っ!!
「姉貴?何故そんなに疲れた顔をしているんだ?」
「あーあー、何でもない!!何でもないから!!」
突っ立っている千絋を強引に押し退けて、奥の席に座る。
……フレンチトーストね。ボクだけこういう甘いのにしてるのは分かるよ。凄い好きだよ。でもさ。
「なんで隣に獅子唐があるの?こんなの食べなくてもボクは生きていけるからね?」
「駄目だ。姉貴は好き嫌いが激しいから、直さないとな……これでプラスマイナスゼロ、だろう?」
「…………バカ」
「その前に『いただきます』は?」
「イタダキマス」
今日の朝ご飯は、全く味わわずに完食してやった。
テレビの前の一際大きいテーブル。朝ご飯の後は必ずそこに集まる。
「……はい、全員揃いましたね?」
「揃ったっスー」
「偽者はいませんね?」
「いないよー」
「では『皇龍の牙(バハムート・ファング)』定例会議を始めます。やりたい事がある人、殺りたい人がいる人、その他提案がある人はどうぞ」
集まった人数はさっきの4人に2人追加されて6人。
1人はリ・トラン。白いポニーテールに緑のジャージ。活発的な赤色の目が幼さを引き立たせる。中国の異能者と日本の異能者のハーフの男の子だ。
もう1人は王城時紅(おうじょう じぐ)。ぼさぼさの黒い髪に、白黒のかなり眠そうなオッドアイ(左目は失明している)。黒いパーカーにグレネードを付けたカーキのズボン。ガタイの良い人にはよく似合う服だろう。彼はDIYや武器などもの作りが大得意、そんでもって幼なじみの千絋の事が大好きな男の子だ。
で、この6人がボクの組織……『皇龍の牙』のメンバー。
現在の活動内容は面白そうな事をする事。一応目的はあるけど、まだそれを達成するつもりにはなれない。
つまり、暇人(?)だ。
「はい、殺人希望っス」
「あー、僕もー」
「はい、澪、寝無」
「この陰険野郎をどうにかして殺りたいっス!!」
「この正義面してる脳足らずをブチ殺したいねぇ!!」
同時に言い放つ。しばらくして血管が切れる音が2回。いつもの事だ。
「残念、団員同士の殺し合いは禁止です。他に意見はありますか?」
いつもの事にはいつもの言葉で返した。
「はいはーい、オレは昨日面白い話聞いたアルよ!!」
「はい、トラン」
「わりとすぐ近くにすっげーつえークリーチャーが湧く迷宮(ラビリンス)が出たらしいアル!!あれ行きたいアル!!」
「……だそうです。何か意見はあるかな?」
全員が首を振る。「特にない」と言う事か。
「じゃあ今日はその迷宮攻略で決まり。各自準備が済んだら『門』の前に集合ね。……解散!」
締めの言葉で皆は散り散りになっていった。食堂に居るのは自分1人だけだ。
「……手応えがあると良いんだけどね」
なんとなくそう呟いて、ボクは食堂を出た。