ROG:3-2/嫌われ者と『お楽しみ』と
日焼けしたノートを開けて見せてやる。
「……何、これ」
「見て分からない?日記だよ日記。読み聞かせとかされた事もなさそうだし、せめて1回はしてあげようと思ってねぇ。……ま、眠ったらお仕置きがあるけど。話せって言った方が寝てたら失礼でしょ?」
後ろに回り込んで、抱きつく様な姿勢になる。小さく舌打ちが聞こえた。
「……わざわざ、そんな事しなくても良い」
「話し方なんて僕の勝手でしょ?お願いする側が文句付けるなんておかしいよねぇ?」
「うっ……」
……「女の子は耳を攻めればすぐに落ちる」と聞いた事があるけど、この調子だと完全に落ちるまで相当掛かるだろう。クロトの考えている事は「真実を知りたい」、ただそれだけで変わりそうにもない。
「は……やく」
「そんなに言われるとやる気が出ないなぁー、僕、あんまりガツガツ来る子とか嫌いなんだよねぇ。……でもクロトみたいな、普段は大人しいのにスイッチが入ると負け犬みたいに吠える子は好きだよ」
頬を撫で上げる。そして耳元で再び囁いた。
「__と言うか、クロトそのものが好き?いや、愛してる……かな」
「ふざけ……っ!!」
彼女が怒りに目を見開く寸前、また口を塞いでやる。夜中にうるさくすると近所迷惑だろう。
「静かにして。僕は本気だけど?」
「……こんなの、……不潔だ」
肩で息をしながら、また睨みつけてきた。紅いハズの目は、何故か目も眩む様な金色に色を変えている。
「……ああ、そう言えば君は『魔力閉鎖症候群(クローズ・シンプトム)』だったか。……ともかく、不潔なんて言わないでよねぇ。前に嫌悪感はないって言ってたのは嘘だったの?」
「それは本当だ、でも……」
「『愛がない』って言いたい?じゃああったとして、と言うかあるけど、クロトはそれを受け入れてくれた?」
何をしても落ちない彼女に、少しだけ苛立って攻撃する。それでもクロトは無言で首を振った。
「ボクにだって……相手を選ぶ権利が、ある」
「僕にはないって事?」
「キミにもあるよ……でも、こんなのはやっぱりおかしい」
「おかしいなんて言わないでよ。だったら、どうすれば良いか分からない……ねぇ、どうしたらまともになれるの?異常から抜け出せるの?」
気がつくと、泣きながら色々な事を口走っていた。
幼い頃からお父様と、その取引先の相手にセクハラをされていた事。
いくら泣いてもやめてくれなかった事。
それを見て何も言わずに家を出たお母様の事。
全てを話した頃には、いつの間にか拘束を解いたクロトが僕を抱きしめていた。
「……キミもキミなりに、辛かったんだよね。……分かってあげられなくてごめん。けど……今は、機関の事を教えてくれないかな?」
僕の頭をただ撫でながら、穏やかな声音で彼女は言った。




