ROG:1-1/惰性の朝
閉じた瞼の裏に光を感じ、目を開いた。
窓に視線を向けると、外が少しだけ明るくなっているのが見えた。
「ふあぁ……」
女の子らしからぬ大きなあくびをして、隣を見る。どうやらあの子は先に起きた様だ。姿がなかった。
早起きしたつもりなんだけどなぁ、とぼやきながら、のそのそとベッドを降りる。
……変な夢を見てしまった気がする。気分が悪い。
つまらない事でもやもやするのは嫌いだから、雑念を払おうと洗面所で顔を洗う。
そして柔軟剤の恩恵でこれでもかと言うほどふわふわになったタオルで顔を拭く。
「よし、今日も頑張るか!」
……なんて希望溢れる若者みたいに言ってみるけど。
このボク……死々王(ししおう)クロトに頑張る様な事はない。もしあったとしてもそれは趣味のドミノ崩しやジェンガで、頑張るとは言えない事だろう。
去年の秋までは世界最強の小学6年生だったけど、今は世界最強、なおかつ伝説の殺し屋(ただしほぼニート状態)だ。一応理由はある。
ボクにきた依頼のほとんどは初心者でも簡単に出来る様なモノばかり、それを初心者の殺し屋に任せているからだ。
実力に見合う仕事しかしたくないと思うのもあるし、エリートは育てておいて損はないからと考えているのもある。
「面白い事をしたいボク」に、「多忙」なんて言うあってはならない事態は来るべきではないと言うのが一番の理由だ。
手首に付けた携帯端末を見ると、6:20の文字が映っている。
朝ご飯まで後10分だ。
「……そろそろ行くかな」
常夜灯にしていた部屋の電気を完全に消すと、ドアを開けて廊下に出る。
別に、お金持ちの家って訳じゃない。ここはボクの組織……『皇龍の牙(バハムート・ファング)』の拠点(ベース)だ。
見た目だけは馬鹿デカくて綺麗な廃工場の中を大幅改造して植物園とか書斎を作っただけで、案外ちゃっちかったりする。
今度こそ行かないとなー。時間に間に合わないし。
頬を軽く叩くと、階段に向かって歩き出した。