危機と海を越えて
絶対王直々に、3日以内に何かが起こると宣告されたのは良かった。
1日目。特に何も起こらない。淋がアイスやらかき氷やらを作っていた。
2日目。特に何も起こらない。トランが姉ちゃんの絵を燃やしかけて説教されていた。
「……で、今日がその3日目なんスけど。特に何も起きないっスね」
ニュースサイトを適当に読み流しながら、絶対王に話し掛けた。今年も日本は毎年恒例の異常気象、『夏に降る蒼い雪』が降らなかったらしい。
「油断しない方がいい、なんせボクにも詳細は分からないんだから。……蒼虎会の監視はボクがしている、危なくなったらすぐに帰国しよう」
絶対王はリストフォーンとのにらめっこで忙しいらしく、声に少し苛立ちが混じっていた。
部屋の中だと言うのにリュックを背負っているのは何故だろうか。
それを遠くで眺める絶望野郎の顔は、バカみたいに緩められている。……こいつ、変態だ。
「何ニヤけてんだよ」
「べっつにーぃ?こーんなに真剣な顔で監視してるクロトって、やっぱり獲物狙ってる猫みたいで可愛いなぁって思ってさぁ?」
「なっ、あっ、……バ、バカ……!!」
絶望野郎がからかうと、絶対王は顔を真っ赤にして酸欠の金魚みたいに口をパクパクさせた。
……おお、弱点発見。
今度からかってみよう、と悪い事を考えていると、パーカーの袖を引っ張られる。
「ん?」
「澪姉、見てこれー」
花でも咲きそうなぐらい楽しそうな笑顔で、淋がグラスに入った小さな兎の氷彫刻を見せてきた。
「おー、なかなかっスね。姉ちゃんに教えてもらったんスか?」
「うん、零姉のはもっとすごかったよー」
何が起こるか分からないこの3日間、漠然とした不安は淋のおかげでぶっ飛ばされていた。
正義の味方がこんなんじゃ情けないけど、この子がいるから、今のあたしはなんとかあたしでいられるんだ。
「……そういや、トランは?」
「トランは外。多分もうすぐ帰ってくるよ」
またバカやってるんじゃないかと言いかけたその時、小さな爆発音が聞こえた。
トランが何かやらかしたかと呆れたけど、次の瞬間絶対王が叫んだ。
「__澪!!父親以外に蒼虎会の関係者と連絡は取れるか!?」
「へっ!?ああ、多分問題ないと思うっスけど……」
「すまない、少し借りる!!」
リストフォーンを奪われる。何があったのだろうか。
「……何人か繋がらない……刺客がいたのか!?」
「それは良いけどいきなり大声出さないでよねぇ、クロト。淋泣きそうになってるじゃん」
案の定、驚いて涙目になりながら淋はあたしにくっついていた。
「それどころじゃないんだ、このままじゃ……」
「何なんスか、親父に何かあったんスか!?」
迫ると、絶対王は右手の人差し指を立てた。どうやら繋がったらしい。
「……やぁ。蒼虎会の者か?……すまない、少し借りているだけだ。キミ達のお嬢さんは無事だから安心しろ」
険しい顔はそのままに、冷たい声音で会話している。危ない仕事をしているから、こういう事には慣れっこなんだろう。
「……なるほどな。キミの話は伝えておく。だから、過激派の奴らにもこう伝えておけ。
__この『絶対王』、貴様らの命を頂戴しに参る、と」
楽しげに言った後、一方的に通話を切った。
「な、何があったんスか」
「……蒼虎会の過激派が、キミの父親と一部の幹部を殺そうとしている」
苦い薬を飲み下した様な顔で、絶対王はそう告げた。
「そりゃまたピンチだねぇ」
「それってどいつが……」
「リーダー格は分からない。が、今から向かえば助けられる可能性があるのは確かだ。……四次元リュック、転移装置」
よく分からない単語を言うと、リュックがもぞもぞと動き出しどら焼きみたいな形の黒い機械をぽんっ、と吐き出した。
「さて、澪。突入する為にはキミの力が必要な訳だが……勿論協力してくれるだろう?」
「そりゃ協力するに決まってるっス、親父が危ないんだから」
「……なら良い。これは場所が遠いほど展開速度が遅くなってしまう。それをキミの能力で短縮して欲しい訳だ。……頼んだよ」
緑色の床に黒い機械が置かれる。スイッチか何かを押した後らしく、微かに青く発光していた。
「じゃあちゃちゃっと終わらせるっスけど、もしかしたら倒れちまうかもしんねぇっス。そん時は……頼んだっスよ」
腰に提げていたケースから木刀を抜く。こいつを構えていないと、どうにも落ち着かない。
機械に精一杯意識を向けると、みるみるうちに光が広がっていった。
「これで準備完了だ。……転移(テレポート)!!」
絶対王が短く叫んだ途端、光が一際強くなる。
そして、意識が飛んだ。




