記憶の影
リビングを出てすぐ左にある扉を開けると、確かに奥のベッドで2人は寝ていた。
1人は大変寝相が悪く、もう1人は布団にうずくまっている。
「淋っていかにもひきこもってますーなこの子っスか?」
「そうだね。彼女は自分の名前も覚えてないみたいだけど」
淋を見る絶対王の目は、殺し屋とは思えないほど穏やかだった。これがギャップ、って奴だろうか。
「静かに……とりあえず、出来る限りはやってみるよ。記憶を戻すなんてやった事がないから、ちょっとしか戻せないだろうけど」
「それでもいい。後、出来れば……経過報告も頼む」
「了解。記憶処理の邪魔になるから、2人は離れといて。何話してもあの子達には聞こえない様に処理しとくから」
「……分かった」
この時ばかりは素直に引き下がる。
絶望野郎が淋に歩み寄り、眼帯を外したのが見えた。
「……キミは、ボクに何か言いたい事があるんじゃないかな」
しばらくして、絶対王は小さく言った。
「え、何で分かったんスか!?」
「目を見れば分かる。何が言いたいのかも、把握出来ているつもりだ。
ボクに明るみに出て欲しいとか、そう言う事だろう?」
この人は読心者(エスパー)か何かだろうか。まさかここまで読んでくるとは思わなかった。
「そうっスね。で、どうなんスか」
「断る、と言っておく。ボクが明るみに出れば、それこそ何が起こるか分からない。……ボクは不幸を呼ぶ。疫病神なんだ」
「そんな訳……」
「なら教えてあげよう。ボクは捨て子で、施設育ちだ。重い病を患っていて、ある時同じ病を持つ先生が来た。人間不信に陥っていたボクはしばらくその先生と仲良くしていたけど、先生はある日自分は幽霊だとバラして消えてしまった。原因はボクに深く関わるモノだった」
あたしの言葉に苛立ったのか、『先生』を死なせた自分に苛立っているのか。
複雑な気持ちのまま声を掛けられずにいると、彼女は言葉を続けた。
「それからも、色々な人が不幸な目に遭ったよ。3大組織のとあるリーダーは……」
「クロト、どうしよう」
絶望野郎の声に、絶対王は苦虫を噛み潰した様な表情を緩めた。
「……どうかしたか?」
「この子の記憶、かなり残酷だ。これを戻せば今よりココロの傷を深くしかねない。……どうする?」
しばらく思い詰めた顔であたし達は固まっていたけど、絶対王が先に言葉を発した。
「……記憶処理をやめてくれ。淋にはかなり失礼だけど、どんなモノだったか……話して欲しい」
「……分かった。とりあえず零さんに他に空いてる所がないか聞こう。あればそこで話す」
……あー、調子が狂う。事を進めるのは絶望野郎と絶対王ばっかりで、これじゃあたしが部外者みたいなもんじゃないか。
悔しさともどかしさを飲み込んで、静かに部屋を出た。




