ブレイブ・コンタクト
「__桐原澪に八王子寝無……お目に掛かれて光栄だよ。ボクが絶対王、死々王クロトだ」
大人びた女の子の様な、または声の高い男の子の様な凛とした声。確かに、性別は言われないとよく分からない。
「名前は知ってたんスね……よ、宜しくっス」
おそるおそる左手を差し出すと、握り潰したりもせずに普通に握ってきた。
「はは……よく分かってるなぁ、もしキミが右手を出していたら微妙な雰囲気になる所だった」
意味が分からずに首をかしげると、また笑った。
「右手だけは最初に触ったらダメなんだ。『出すなら左手で頼む』なんて言ったらおかしいだろ?」
「なるほど、命拾いしたっス。んじゃ絶望野郎、お前右手出せよ」
「……いいけど、アンタらが思ってる様な事にはならないと思うよ」
もっとビビるかと期待していたのに、絶望野郎は恐れる様子もなく右手を差し出した。
絶対王は右手でゆっくりと握ったけど、特に何も起こらない。
「八王子君……キミは、ボクと何処かで会ったか?」
何の事かは分からないけど、驚きを隠せなかったらしい。仮面の奥で目を見開いているのがうっすら見えた。
「さぁね。僕は君みたいに仮面をつけた女の子と会った事ないけど」
「……なら、これでどうだ」
仮面を外し、フードを下ろす。紅い目と白いアホ毛が出てきた。全貌を露にした顔立ちは酷く整っていて、中性的な美しさがあった。
その顔を少し見てから、
「__さぁ、どうだろうねぇ。生憎と僕は物覚えが悪いんだ」
、と絶望野郎は嘘をついた。こいつの記憶力は無駄に良かったハズだ。
おどけた調子で手を振る姿は、鬱陶しいピエロそのものだった。
「そうか、では『物覚えが良くて人の記憶を勝手にいじくれる』キミに……」
「待ってよクロトちゃん、お姉さん全然話についてけないよー……」
「あたしも同感っス……」
2人で訴えてみると、絶対王は呆れて首を振った。
「聞いた所でどうにもならないと思うけど、仕方ないな。
彼の能力を使えば淋(りん)の記憶を取り戻せるかもしれない、ただそれだけ」
聞きたい事はそっちじゃなかったけど、よっぽど知られたくない事なんだろう。あえて言及はしないでおいた。
「でもクロトちゃん、トラン君はあの子の事知らないのかなー……?一緒にいたんだよねー?」
「たまたま居合わせただけらしい。それでも良かったよ、彼がいなければ淋はきっと今以上の精神的ダメージを負っていただろう。そうなれば治療も出来なくなるから」
淡々と言って絶対王は目を伏せた。
「……それにしてもよく分かったねぇ、僕の能力」
「その見てるだけで苛々する顔で分かる。読心か記憶操作、いや、キミの場合は脳の操作か。ここまで気持ち悪い異能者は初めてだ」
「初対面によくそんな事言えるねぇ」
「……あまり嘘はつかないで欲しいな」
不快とか嫌悪とか、そういう生ぬるいもんじゃない負の感情が顔に出ている。それを見たあたしはああ、絶対王もちゃんとヒトなんだなぁ、としみじみ思った。
「零、淋は?」
「まだ使ってない部屋で寝てるよー」
「そうか。……治療はなるべく寝ている時にやっておいた方が良い。八王子君、桐原君。同行は……」
「構わんっスよ。後タメで良いっス」
「僕も同意だねぇ」
「……ありがとう。じゃあ行こうか」
絶対王はふっと笑い、リビングを出た。




