威圧に隠された正義
「おおー……」
姉ちゃんのアトリエは、ポートリーと言う港町にあった。
絵の様な美しさ、と姉ちゃんは言っていたけど……
青い海。白い建物。
窓から見えるこれらに、曇天が入らなければそう見えたんだろう。綺麗っちゃあ綺麗だけど。
「それにしてもこんなアトリエ、どうやって作ったんですか?立地条件もかなり良い所にありますし、自分で費用を払ったとは思えませんけど」
「上の人に言ったらすぐ作ってくれたんだー、こんなアトリエは他にも……ええと、4個ぐらいあるよー」
「自分で把握出来てないって……」
「るっせぇぞ絶望野郎!大人しくしてろ!」
「誰のセリフでしょうねぇ、それは」
「あはは、どこでも変わらないねー、2人は」
売られた喧嘩はぜひとも買いたいが、大事な事を忘れていた。
「……姉ちゃん。絶対王、どこにいるんだ?」
「あー、もうすぐ帰ってくるみたいだよー。さっきメールもらったし」
姉貴は浮かれ気味に言ってから、タブレットをあたしに見せてくる。
「……嘘だろ……」
物騒な文章と、ジェット機が煙をあげながら落ちていく物騒な写真。
アクション映画のワンシーンかと信じたかったけど、
「また外国の異能者に狙われてたんだってー。凄いよねーあの人は」
、と言う姉ちゃんの言葉でやっぱり常に戦ってる人なんだなぁと思い知らされた。
「マジかよ……」
「ク……絶対王はそんなの日常茶飯事だよ、なんせそう言われ始めたのはつい最近の事だしね」
絶望野郎がわざとらしくため息をつく。……こいつ。
「チッ……姉ちゃん、他に絶対王について知ってる事あるか?」
「あー、この間まだちっさい男の子と女の子連れて来たよー。うーん……7、8歳ぐらいかなー、よく分からないけど。
何でもテロに巻き込まれた所を保護したらしくてねー」
へぇ……ちゃんと人助けするんだ。もしかしたら、あたしが言わなくても明るい所に出ようとしているのかもしれない。
「……その子ら、今どこに?」
「あっちで寝てるよー、まだ使ってない部屋。でも、女の子の方はクロトちゃんがいないと泣いちゃって何も話してくれないんだー……」
悲しそうに言って、姉ちゃんはしゅんとした。
「多分それ、記憶喪失になってるんだと思いますよ。テロで精神ダメージを受けた記憶だけがあって、絶対王……クロト以外を無意識に恐怖の対象としてしまうんです」
「つーか絶対王って、女……なのかよ」
「そうだよー」
寝無が言い終わる時に、すぐ近くでジェット機の飛ぶ音が聞こえ出していた。
しばらくして、アトリエが微かに揺れる。
「あ、帰ってきたみたいだよ」
足音が近づいて来るのを、固唾を飲んで待つ。
ドアを開けられるまで、絶対王が入ってくるまでの数分が何時間にも感じられた。
「やぁ。そちらの方は平和そうで良かったよ」
赤と黒の2色で分けられた眼帯と、白い片面の仮面。袖が非対称なフード付きのコートを纏っていた。
深めに被られたフードのファーでよく見えないけど、毛先に行くに連れて白い髪が黒くなっている。
ただ立っているだけでも、ただならぬオーラ……みたいなのを感じた。
彼女は背負っていたリュックと小さなカバンを部屋の隅に置くと、こちらにやって来た。
「__桐原澪に八王子寝無……お目に掛かれて光栄だよ。ボクが『絶対王』(トータルキング)、死々王(ししおう)クロトだ」
仮面に付けられたレンズの奥から覗く、血の様に紅い目が光った。




