ゴーイング強引
授業はサボるし、不良軍団と戦う事もある。だが流石のあたしも一応は常識人だ。
黙々と、リストフォーンで散々迷惑メールを送り合うのが、公共の場での喧嘩のルールである。
リニアで15分ほど送信、削除、受信を繰り返し、5分歩けば家に着く。その間は全力で暴言や暴力を奮う。
「ただいまー」
『おかえりなさいませお嬢!!』
親父の仲間の声の後、姉ちゃんがやってきた。
「わぁ、ちゃんと殺さずに寝無君連れてきてくれたんだぁ。澪は偉いねぇ」
「姉ちゃんが言うからやってるだけだっての!いつまでも子供扱いしないでくれ!」
「どこからツッコめばいいんだよぉ……」
何故か絶望野郎は頭を抱えていた。なんだ、爆発するのか。
「はいはい。茶番は終わりぃ。それでねぇ、澪に言った通り、二人にお話があります!ほら、上がって上がって」
ふにゃりと笑っていた顔を引き締めている……つもりなのだろうか。なんだか得意気にしてる子供みたいだし、柔らかい雰囲気はそのままだ。
来客間に通し、正座する。絶望野郎なんぞにやる座布団はない、と言っても聞き入れてくれなかった。
「……手短にお願いしますよ」
「えっと、お仕事でまたイギリスに行く事になったのー。それでねー、今回はついてきてくれる人がいないらしいから、2人についてきて欲しいんだよねー。夏休みの旅行みたいな感じで、きっと楽しいよー」
……本当に、子供みたいなお願いだった。
「なんで澪だけじゃなくて僕もなんですか。ボディーガードなら今噂の『絶対王(トータルキング)』にでも頼めば良いのに」
「そう言えば……私にお仕事頼んだ人、そんな感じで呼ばれてたなー」
「「はぁ!?」」
驚きの声は、絶望野郎と重なった。……腹が立つが、まぁ許そう。
なんてったって、『絶対王』と言えば1人でありとあらゆる生き物を殺してきた、伝説の殺し屋兼掃除屋(ランナー)だ。妙な格好に仮面を付けていて、性別、年齢は全く分からない。身長だけ見ると10にも満たないが、言動はかなり大人びていて全く分からないらしい。
これだけでも恐ろしいけど、最も重要なのは……
今のところ世界で最も強いとされる異能者である事。
時間を止め、未来を見、永遠に歳をとらず死なない。
メガホン型、銃型、ナイフ型の魔装を所持し、それらを巧みに操るらしい。
あたしは、そんな絶対王が気になって仕方ない。どうして顔を隠したがるのか。光に出ようとしないのか。
ただ……明るい所へ連れ出してやりたい。人助けにその力を使って欲しいのだ。
「どうしたのさ、そんな真剣な顔して。絶対王に何かされたの?」
「ちげーしバーカ!!……姉ちゃん、あたし行くよ。行って絶対王に会いたい」
「会いたいって言ってくれて嬉しいよー。この前その絶対王さんに2人のお話したら、『ぜひとも話がしたい』って言ってたからねー」
「……つまり、僕も行かなきゃいけないんですか……」
「はっ、まだ腰抜けのままかぁ?情けねぇなぁ。それでも男かよ」
「はいはい分かりましたよ!!行けばいいんでしょ行けば!!」
「うんうん、ありがとうねー。じゃあ6日後の……18日から5日間。ちゃんと宿題も持っていくんだよー」
姉ちゃんはそれだけ言って、自分の部屋へと戻っていった。
絶望野郎は大きく息をつくと、「じゃあ僕は帰るから」とだけ言って出ていく。
絶対王……どんな人なんだろう。
「おいお嬢ー、稽古の時間だぞー!!いつまでも座ってねぇで、早く来なー!!」
「あ、すいません!!今行くっス!!」
窓から師匠の声が飛んできて、あたしもすぐに来客間を出た。




