哀による、愛のための
仄暗い空間に、無数の結晶が咲き誇る。
黒と蒼の焔が揺らめき、交わり、そして消えていく。
「……ごめん」
ズタボロになりながら、息も切れ切れになりながら、短く、小さく言う。
「うるさい……謝る必要なんか、ないのに……」
地面に仰向けで倒れている彼女の傷は、ボクよりもっと酷かった。
左半身は血に塗れて、腕なんかは骨と皮でギリギリ繋がっている状態だ。
「……さぁ、お前の勝ちだ。決着は……」
「神でもなく、勝者でもなく、『境界』がつける……でしょ」
カミサマは、勝ち負けを決めてくれない。
カミサマは、ボクらを救済してくれない。
生きる者を生かし、死せる者を死なせる、そんなルールも守ってくれない。
だって、もういないから。
だから、
死んでいるのに生き続けるボクが、
生きているのに死に続ける彼女が、
決着をつけなくてはいけなかった。
今のボクは、『境界』だ。
叶うかも分からない愛を取るか、彼女の哀に情けを掛けて消えるか。
ボクは、それを決める事が出来る。
辛い事は何度もあった。死にたくなる時もあった。
その数と同じぐらい、素敵な思い出もあった。
ボクはこれまでも、これからも、そんな均衡を保ち続けたい。『境界』でいたい。
……自分は、本当に愚かだ。
結ばれるためなら何でもする、それ程好きだったのに、人殺しは出来ないなんて。
「……ごめん」
「分かったから、もう……謝るな……」
なんとかそれだけを言うと、彼女は激しく吐血した。
重苦しい時間は、ゆっくりと彼女を殺していく。
そしてボクにも、ゆっくりと決断を迫らせていく。