炎天もどきと因縁の業火
長期の休み前、放課後の会議室では様々な議論が交わされる。
今年の夏も、例外ではなかった。
「……だーかーらー、テメェはなんでいっつもそんなんなんだ!!ちょっとは人の為になんかしようとか考えねーのか!?」
「考えないねぇ、僕は他人の苦しむ顔と怒る顔が大好きなんだから!!アンタもそうやって突っかかるのやめたらどうだい!?」
「あぁん!?ふざけてんのか!!」
「それはこっちのセリフだよ!!その他校の学ラン、校則違反だし!!とっとと脱いだら!?」
「テメェのその腹黒さは我が校の方針から大きく逸れてるがな!!」
「あの2人が来てから生徒会も潤ってきたもんだな」
「なんてったって1人で闘技場の『親方(マスター・フェンリル)』倒した称号持ちだもんねー」
「……でも流石にあれはどうかと思うよ」
「俺はあのクソ風紀がボッコボコにされるから良いと思うけど」
「「あ、賛成」」
あいつと出会ってから、あたしの毎日はそれはもう刺激的だった。通っている学校が同じ事、家が近い事も手伝って、暴力と暴言の応酬に明け暮れていた。何故か小6の頃絶望野郎は姿を消していたけど、その1年以外は本当に喧嘩しかしていなかったのを鮮明に覚えている。
その後姉ちゃんの熱心な薦めでこの中高一貫校こと佳泰(かたい)、通称「カタ校」に進学し、流石の絶望野郎もここまで来ないだろうと思ったのだが……見事にいやがった。
同じクラスにされ、同じ剣道部に入り、怒ったあたしが生徒会の書記になればあいつは風紀委員になった。
どうやら、絶望野郎と繋がった血の色の糸は切っても離せないらしい。
いがみ合っていると、うんざりした表情で生徒会長が口を開いた。
「……桐原さん、八王子さん?いくら貴方達が有名人と言われていても、ここでは生徒会会議の一員として扱います。お静かに」
「「認めな」」
「認めなさい!!」
悪魔の様な速さで飛んでくる白い流星。けど、そんなんじゃ甘い。あたしはいとも簡単にそれの軌道を逸らす。
「ぎゃあああ!!」
2つのチョークが絶望野郎に直撃した。
「だーっはっはっは!!ざまぁねぇな絶望野郎!!」
情けない面に腹を抱えていると、眼鏡が妖しく光り出す。
……次の瞬間、2人セットで会議室から投げ出されていた。
「もういいです!!明日の会議では大人しくしてないと……どうなるか分かってるでしょうね!!」
「だーっ、なーんでこうなるんスかー!!……おい、悪いのはテメェだからな絶望野郎っ!!」
「訳の分からない事を言い出す方が悪いんですよーだ。て言うか、僕はアンタのお姉さんが呼んでるって聞いたんだけど。時間は大丈夫なの?」
「うっせぇ!!……帰るぞ、おら!!」
生意気な口を暴力で黙らせて、あたしは生徒用玄関に向かう。
……本当に、姉ちゃんの用事って何なんだろう。
セミの鳴き声と蒸し暑さが、考えるのをやめさせた。
残り僅かだったミネラルウォーターを空にして、ゴミ箱に捨てる。
夏休み前日の17時、冬の様に日は暮れていなかった。




