暴力と暴言と冒頭と
「……つまり、こいつはお前の未来の旦那じゃなく自分の正義と真逆の喧嘩相手っつぅ事だな?」
「そう!!」
結局、4時間ほどの説明で親父は納得した。狼の事も話すと、意外とあっさり許してくれたから本当に良かったと思う。その間のゼツボーヤローはと言うと……もう抱腹絶倒ものの面をしていた。親父の前だったから、笑いを堪えるのに必死だった。
「おめぇさん、俺の澪に必要以上に手ぇ出したら……どうなるか分かってんだろうなぁ?」
「て、手出しするつもりなんかありません……!!」
「あぁ!?おめぇそれでも男か!!」
「どっちなんだこの人……!!」
「そうだぞ親父、あたしはこんなのダンナにするつもりなんかないからなっ!!」
最後にそう言うと、あたしは部屋を出た。
男2人でぎゃいぎゃい騒いでる所悪いけど、こっちは飯の時間なんだ。
「あらー、澪ってば大胆ねー」
「!?」
おっとりした声と共に、肩を叩かれる。
「ね、姉ちゃん……なんで!?しばらく外国行ってて帰って来ないって言ってたのに!!」
「実は日本からもいーっぱいスカウトがあってねー、静かなアトリエが嫌だから、こっちに戻る事にしたのー」
ベレー帽を直しながら、姉ちゃん……零(レイ)は照れ笑いをした。
毛先が淡い水色なのが桐原家の特徴で、ロングヘアーの姉ちゃんに淡い緑色のベレー帽はなかなか似合う。あたしはわざわざ染めたから、そこまで淡くはないけど。
緑色が好きらしく、カーディガンもその下も、色合いや濃さこそ違うものの緑色だ。
流石にスカートやブーツまで緑にする訳にはいかないらしく、そっちは茶色で統一していた。
全体的に優しい雰囲気の人だけど、たまーに変な事を言う。
「それでねー、せっかくだし家に帰ってみようかなーと思ったのー。そしたら晩ご飯も作ってなかったから適当に作って、お父さんの所に行ったら丁度お話の途中だったみたいでー」
……間延びした口調が、やけに恐ろしく感じた。嫌な予感がする。
「……まさか澪が7歳でお婿さんを連れてくるとは思わなかったよー!」
勿論それは当たり、悪意の欠片もない笑顔を見せた。
「……あのな、姉ちゃん。あいつはあたしのケンカ相手で」
「照れなくていいよー、お姉ちゃんより先に良い人見つけられたなんて凄いってー」
「だーかーらー、違うってーのー!!」
こうして納得してもらうのに2時間もかかり、晩飯の頃には23時になっていた。
ハラワタが煮えくり返っていたあたしは、遅かったので泊めてやると言う名目でゼツボーヤローを朝までボコスカ殴ってやった。
これが、あたしとあいつの関係の始まりだ。




