ACT:2-4/彼女らの需要
女の子の入浴シーン。それは世にはびこる男性諸君にとって、楽園の具現みたいなモノだろう。
……ボクには全く理解出来ないけど。
きっと寝無がよく読んでる小説なら、胸とか太ももとかそこら辺の描写が濃厚になっているに違いない。
そういうのがあるから、入浴シーンは男達の中で楽園として存在しているんじゃないか?とボクは思う。
だがしかし、驚く事なかれ。
……ここにあるのは、そんな妄想も裸足で逃げ出す(ボクにとっても)悲しい現実だ。
「はー……最高だぁ……」
「効能としては疲労回復…………があるからな、当然やんねぇ」
「疲労回復しかないんスかっ!?」
「効能があるだけマシだと思って欲しいにゃ」
「むしろ効能が疲労回復だけの温泉なんてかなり珍しいと思うのだが……」
「んー?どうしたお前らぁ?ひっく、恥ずかしい話すんのが嫌で逃げてんのかぁ?」
『いいですね胸のある人は!!』
淋と檜以外の意見は満場一致だった。
翡翠を溶かした様な色の湯が波立つ。
「仕方ねぇだろうがぁ、殺し屋とか物騒な仕事やってるお前らが悪りぃんだよぉ……うぃ」
「はぁ!?テトだって夜中に酒飲んでるやろうが!!」
咲が大きめの水鉄砲を構え、テトのそれはもうご立派な胸部装甲に直撃させる。
ちょっとどこから持って来たのそれ。17歳でそんなの持ってる人、ボク見た事ないよ。
「てめぇ……やりやがったなぁ!」
湯船に浮かばせていた日本酒をひっくり返し、やっぱりどこから持って来たのか分からない水鉄砲で反撃する。
「テトのくせになまいきだ!!略してテトなま!!よぉし……」
「待て!!」
咲の攻撃は、千絋の鋭い声で遮られた。
「ひっ……ど、どうしたの千絋姉」
「……上から、血が」
淋の問いに短く返して、彼女は手を差し出した。微かに赤みを帯びる手のひらに、紅い血が数滴ついている。場にそぐわないアクシデントが起こったからか、少し震えていた。
上を見上げてみたけど、湯煙で何も見えない。
「あれ、千絋のいるとこだけ滴ってるに。……気持ち悪いにゃ」
身震いしながら檜が顔をしかめた。なるほど、確かにボク達の身体には血が付いていない。
……まさか、こういう所には付き物の『アレ』か。
「咲、ちょっと聞きたいんだけど」
「ん?何ぞ?」
「……ここって事故物件だったりする?」
「そりゃねーぜ。ちゃんと調べたし、念のため永久持続型の浄化魔術も業者に展開させてるさかい」
心霊現象、と言う可能性は無くなった。
他に有り得そうな事はないハズ。何か可能性はないのか……?
……いや、あるじゃないか。
『ここだからこそ起こりうる事』が!
「……もうひとつ、聞いてもいいかな」
「別によいが……なんかすげー顔してんぞ」
「もうじき皆そうなるよ、だから早く答えて。
……隣って、男湯?」
「お、おう」
……どうやら当たりらしい。
「千絋、念のためすぐに離れといて。__せいっ」
近くにあった木の桶を千絋の斜め上に投げた。
「ぎゃあああああ!!」
物凄い速さで飛ぶそれは、湯煙の中に消えるとすぐに悲鳴と共に跳ね返ってきた。
「な、何やのあの声ぇ……」
「もうこの声で分かったよね」
血の付いた木桶を掴み、元の位置に戻す。
淋と澪、それから千絋は一気に顔を青ざめさせた。
他の3人は何の事か分からないらしく、困惑した顔をこちらに向けている。
「仕方ないね、分かりやすく言おう。ボク達は……
__のぞきの被害者になったんだよ」
皆が一様に顔を青くした後、すぐに真っ赤になる。
『……ふざけんなよ寝無ぅぅぅっ!!』
妙に静かな女湯に、さっきの悲鳴に負けないぐらいの声が響いた。




