ACT:2-3/落胆不可避のステキ機能
平らな屋根には、軍艦とかによくついてるバルカン砲みたいな奴が所々に設置されていた。
入り口の両脇にも、物騒な大砲がいくつも並んでいる。
バカでかいうえに黒いその建物は、軍隊の基地みたいで格好良く見えた。
「……うっへー!!ドンこれ何スか!?すげーっス、かっけーっス!!」
「いやいやいや!!温泉旅館に格好良さは要らないよね!?」
あたしは凄く良いと思うけど、皆はどうやら違うみたいだ。分かってないなぁ、とココロの中でため息をついた。
この無骨な建物と申し訳程度に付けられているのれんのアンバランスさが良いと言うのに。
「……まさか澪さんがそんな趣味だったとはな……」
「えと……やっぱり澪姉の趣味は相変わらずだね」
唖然としながら建物を見つめていたと思えば、淋と千絋ちゃんが爬虫類でも見る様な目で見てきた。突き刺さる視線が痛い。
「うんうん、頭がおかしいよねぇ。やっと僕の考えに同意してくれて嬉しい……」
「うっせぇ!!テメェほどじゃねぇだろ着物マニア!!」
絶望野郎が言い終わる前に殴りつける。カチンと来たら止められないので、すぐさま穴を掘って雪の中に埋めてやった。
「……くぁあぁ……桐原センパイ、オレこういうのむちゃくちゃ好きっすわ、安心してくだせーよ……」
「オレも良いと思うアル!!バカ寝無の趣味が悪いだけネ!!」
いつの間にか起きた時紅クンとトランが慰めるかの様に言う。でも確かにこういうモノは2人共好きそうだ。
「あっしもこれは良い物件やと思うねんな、名チョイス流石やろ?」
「流石っスね咲ちゃん!!同い年に思えねーっス!!渋過ぎっス!!」
4人で盛り上がっていると、
「……ボク、もうついていけない」
「俺もだ」
「私も……」
「げほっ、ぼ、僕も……」
残りの4人は同時にため息をついていた。つーか絶望野郎はどうやって出てきやがったんだ。結構雪は固めておいたハズなのに。
不満に思っていると、のれんがくぐられた。
「うにゃー。やっと来たかにゃ?待ちくたびれたから色々いじってたに……ってな、何だにゃこれぇ!!」
いかにもふわふわしてそうな髪をなびかせながらやってきた女の子が、頭の芽をぴんと伸ばしながら大砲を見て驚いていた。えーっと、確か名前は檜、だったっけ。
人の名前を覚えるのは苦手だ、と考えていると、更に人が出てきて叫んだ。
「おい何やってんだ檜!!人様に渡すもんだろうが!!」
「そんな事言われても分からないにゃ……ちゃんと押すなって書いてあるとこは押さなかったのに……」
一部を黄色く染められた黒髪が片目を隠している。獣みたいに鋭い金の目とスタイル抜群の長身、黒い特攻服の組み合わせがなんとも渋い。たまらない。
「全く、咲菌でもうつったのかよ……って、桐原んとこのお嬢じゃねぇか。お久しゅう」
酒瓶を傾けた後、わざとらしく礼をしてきた。何だか申し訳ない。
「い、いえ!!あたしはそんな偉い人じゃないんで!!顔上げて下さいよテト師匠!!」
そんな渋くて最高にキマっている人は、あたしの見知った相手だった。
「いんや偉いね、身長もうちに追いついてやがるしな。……おっと失礼。あんたの所有地、うちらが掃除しといたぜ、皇龍(バハムート)のお嬢」
「それはとても嬉しいけどこの物騒な外観は何ですか」
怯えているのか呆れているのか、ドンが若干早口になっていた。
「あんたらが来る前は普通の温泉旅館だったんだが……うちのバカ檜が変なボタン押しやがってな」
「バカじゃないにゃ!!これでもそろばん2級取ってるに!!賢いに!!」
あ、名前合ってたんだ……とほっとすると、檜がぶんぶんと手を振る。
今にも泣きそうな彼女の手を、淋がじっと見つめていた。
続いてトランも真似をし始める。
「「……檜お姉ちゃん、それ何?」」
そして見事に同じタイミングで言い放った。
……確かに、よく見ると右手に黒いリモコンを持っている。淋とトランが近寄ると、ひっと小さく悲鳴をあげた。
確か彼女は植物を育てる能力の持ち主だったハズだ。
そういう能力だし、燃やしたり凍らせたりする人とは相性が合わないのだろうか。
「そっ、そういやずっと持ってたけど何だにゃこれ……あっ、ボタンが付いてるに!ぽちっとにゃ!」
めきょっと言う音と共にボタンが押される。
「うわっ、何やこれぇ!!」
途端に地面が揺れ始め、あたしはその場にしゃがんだ。
屋根や門がひっくり返り、砲台が沈む。
しばらくすると、あんなに格好良かった要塞は青い瓦屋根が特徴的な温泉旅館に姿を変えていた。
「……えー、前の方が良かったっス……」
「残念だけどこれが本来の姿だにゃ」
「……つー訳で、旅館型要塞にようこそやぞ諸君!!」
咲ちゃんが腕を組んで言った。
その直後、師匠が彼女を雪に埋めようとしたのは言うまでもない。
変形ってロマンじゃないですか?




