ACT:2-1/モンスター、吹雪に暴れる
コートにマフラー、旅行用のカバン。
色や柄に違いはあれど、淋以外は皆こんな装備だった。
無論ボクもである。
1日経ったぐらいで止む様な吹雪じゃないらしく、今日も猛烈な風が雪をボク達に叩きつけていた。
「薄々予想はしてたけどさ……そりゃそうだよね、こんな天気じゃ飛行機もリニアも全部運行中止に決まってるよね……」
駅前の掲示板にでかでかと映された『全面運行中止』の文字が憎い。握っていた携帯端末……リストフォーンがみしりと音を立てた。
「でもお兄、ここで待てって咲が言ってたんでしょ?」
「そうだね、多分もうすぐ来るハズだよ」
ボクが言い終えるかどうかのタイミングで、幽かな揺れと共に妙な音が迫ってきた。
……道路工事の時に聴こえる、耳障りなあの音だ。
それに混じって、耳をつんざく様なクラクションとうるさいサイレンの音がせめぎあっている。
「うおぉぉぉい!!きぃぃたぞおぉぉ!!」
その時、風にも負けないぐらいに大きな咲の声が響いた。
ボク達は一瞬ぎょっとしたけど、すぐに叫んだ。
『その車をなんとかしろぉぉぉ!!』
所々から煙が出て、今にも爆発しそうなボロボロの観光バス。
この時点でもうなんか危ないけど……それだけじゃない。パトランプやキャタピラ、巨大な熊の木彫りが嫌がらせの様に飾られていた。
後ろにはパトカーが三台ほど見える。
それを見たボク達は、すぐに真冬の破壊活動を始めた。
「いやぁ、疲れた疲れたぁ!!いきなり変な警察に捕まって死ぬかと思うたわ!!だっはっは!!」
「大型車にキャタピラ付けるとか違法改造に決まってるでしょうが。それに君、免許持ってるの?」
寝無が冷たい声で咲に尋ねるけど、あんな変な仮面付けて言われても威圧感なんかないだろう、とツッコミたくなった。
まぁ仮面を外していても、彼女は物怖じしない人だから結局無意味だ。
「ん?持ってないに決まってるやんね。あんまし外出ぇへんし」
案の定、にへらっと笑いながら手をひらひらさせていた。
「罰金とかはどうしたの?」
「クロトが肩代わりしてくれるっつったらキョドって免除してもろうた。やるやろ?」
「勝手にボクの権力使うのやめてよ……って言うかキミ、仲間は置いてきたの?」
「ん?先に行かせたぜぃ」
……まぁそうなるか。あんな事をしていたらテトか檜が怒鳴りながら止めに入るハズだ。
「つーかそれはどうでもいいアルけどボス……」
「長浜までどう行くんスか」
……視線が痛いです。ちゃんと方法も考えてるんだからそんな目で見ないで……
「皆を四次元リュックに入れて長浜まで走る……ぐらいしか考えてないよ」
「米原からどんだけ距離あると思ってるんよ、あかんあかん」
そう言いつつもちらりと目を合わせてきた。……あぁ、なるほど。
「へぇ。つまり咲は『ボクがあれだけの距離を何日で行けるか』って言う前提で話してるんだよね?
……1時間あれば充分だよ」
「それでこそあっしの嫁やんね」
どうやらお望みの台詞が聞けた様だ。咲は計画通り、とでも言うかの如く笑った。
変な所で回りくどい人だ、と呆れながら、ボクは背負っていたリュックを雪の上に下ろした。
「四次元リュック、巨大化(ラージモード)!」
まるで餅を焼く時の様に少しずつ大きくなるリュックを、皆で囲む。
七輪に集まる老人みたいだ……とでも思ったのか、千絋が妙な顔をしていた。
「……お兄、これ地味だね」
「地味アル」
「そう言う仕様なんだから文句言わないの!!」
仕様と言う言葉には、流石のボクも逆らえないのだ。ある程度大きくなるまで、待つしかない。
寒さでどうにかなりそうなのを、我慢して怒鳴った。
休日明けの2月8日、まだまだ吹雪は止みそうにない。




