ROG:2-4/正当暴力と下劣な提案
「はぁれぇ……お星様だぁ、お星様が見えるよぉ……」
「……姉貴、この人は早々に帰らせてくれ……淋に被害が及んだら大変な事になる……!!」
気を失っていた千絋はものの数分で復活し、咲をフルボッコにしてから涙目で訴えてきた。
クレイモアの様な黒い右腕を直さないままぶんぶん振るので、絨毯がズタボロになっている。
「とりあえず腕を戻そう、ね。部屋からは絶対出さないし」
「……うむ」
千絋はボクの言葉に素直に頷き、深呼吸し始めた。
すると、かっちかちで黒かった腕がみるみるうちにいつもの色白なヒトの腕に戻っていく。
彼女の能力『神墜剣(しんついけん)』は、自分の腕を剣や槍に変える事が出来、身体能力も変化させた武器に応じて変化するといったモノだ。
けれど、彼女は戦いを好まないので使う事が少ない。だから制御に不慣れで、興奮状態になるとたまに発動してしまう様だ。
「ごめん、千絋。もう戻ってていいよー」
わなわなと震える千絋を応接間から退場させて、ボクは咲の治療を始めた。
「……で、何しに来たの?」
包帯と絆創膏まみれの咲は、紅茶を口に含むとにかーっと笑った。
「いやー、あっしの仲間がくじ引きで温泉旅館当てたんよ!それもむちゃくちゃでっけーの」
「へぇ。どこの温泉旅行?」
「いんや、旅行ちゃうで。長浜市にあるガチの奴」
……どんなくじ引きだ。一瞬ボクもやりたいと思ってしまったけど、よく考えたら色々と裏があるかもしれないじゃないか。恐ろしい……
「もちろんあっしはそんなもん維持出来んから、クロトにあげようと思うんよ」
そう言って、彼女はパーカーのポケットから薄い紙を取り出した。
「……確かにボクもかなり貯金はあるし、色々と経営してみたいとは思うけどさ。面倒な事にならない?掃除とか何とか」
「そこら辺はやりますからおこぼれをお恵み下さいよぉ!!」
ぐっへっへっ、と悪そうな笑みを見せた。……咲のくせして汚い。いつからこんな人になったんだろう。
「じゃあその温泉旅館の利益のうち、5%をキミ達に回す。これで良い?」
「あきまへんなぁ」
「なら10%」
「そこをもう少し」
「欲張り過ぎだから0.2%」
「ひでぇ!!」
「はぁ……なら20%」
「決まりやんね!!」
ため息混じりに言うと、彼女は待ってましたと言わんばかりに手を叩いた。
「じゃあここに署名とハンコ頼むわ」
ひらひらさせていた紙を机に置かれたので、そこに書かれていた利用規約やら何やらをじっくり読む。記入欄に名前を書いて、由緒正しき死々王のハンコを押した。
「はい、完了!!ぐっへへー、これでクロトはあっしの嫁な!!」
「……え?」
一枚だけだと思っていた紙は、実は2枚あったらしい。
……それはもう立派な婚姻届だった。
咲の手に渡る前にすぐさま奪い取り、ボクはライターで忌々しい紙を燃やす。
「ひでぇぇ!!夢の新婚生活がぁぁ!!」
「咲のバカぁ!!キミの夢なんか夢のままで良いよっ!!」
紙を握らせると、ボクは彼女を担ぎながら外へ走り出す。
そして大きく跳躍し、巨大な門の向こうへ放り投げた。
吹雪は更に力を増し、悲痛な叫びはボクの耳に届く事なく消えていったと言う。
長浜市に温泉旅館があるのかどうかは分かりません。とりあえず長浜市にお住まいの読者様には謝罪しておきます。こんなぐだぐだ展開で申し訳ございませんでした。




