ROG:2-3/その少女、変態につき
この話には触手要素が含まれています。
「ようクロト!!元世界最強、ただいま到着だぜっ!!」
物好きな来客は、青いパーカーのフードを外して不敵な笑みを見せた。
雪にまみれた黒くて短い髪を、無理矢理後ろで括っている。相変わらず耳辺りの髪は青と赤でそれぞれ染められていたけど、昔とは違ってワックスでブーメランの様な形に固められていた。
猫みたいに真ん丸なスミレ色の瞳は、この寒さのせいかふにゃりとしている。
そんな彼……いや、彼女こそボクの幼なじみ、音邨 咲(おとむら さき)だ。
「これはこれは、『反晶(アンチマテリア)』の咲殿ではありませんかー」
「普通にっ!!普通に出迎えてーやっ!!」
ずいぶんと出世しましたなぁ、とからかうと、小学生の男の子みたいな声で泣きついてきた。
最初の決まり文句から見るに、どうやら標準語も話す様になったらしい。大きな進歩だ。
「冗談だって。そんな格好でずっと外にいちゃ風邪ひくよ、ほら入って」
「おう、悪りぃなー。ほな遠慮なく侵入するわ」
「いや、招かれてるんだし侵入じゃないでしょ」
きっちり門を閉めて、寒そうにしている咲を拠点の中に押し込む。
「ふーん、流石有名組織。あっしみたいな総合拠点所属とは拠点の規模が違うよなー」
「嫌味かな?」
まっすぐ歩く事2分、応接間に着いた。
しかし久しぶりのお客様だったから、二回ほど応接間の場所を間違えてしまった。無駄に部屋の数が多いのも、少し問題かもしれない。使わない部屋はいつか全部壁にしよう。
「とりあえず適当なとこ座っててよ。お茶持ってくるからさ」
「りょーかーい。……にしし」
応接間を出て、階段を登る。
……お茶を持ってくる頃には、応接間に何か仕掛けられている事だろう。ああいう笑い方をしている時は、何か企んでいる証拠だ。
良いタイミングで食堂の厨房に千絋の姿を見つけた。ちょうど良い。この際彼女にお茶を淹れてもらおう。
「千絋ー、お茶頼んでも良いかな?」
「ああ、問題ない。ちょうど良い茶葉で淹れた所だ……持って行こうか?」
「うん、頼むよ」
熱いお茶が持てない訳ではなく、咲の仕掛けるであろう罠に引っかけるためだ。
流石にブービートラップや地雷は仕掛けないだろう。となればスライムか触手しか考えられない。千絋にはそれらに(精神的に)やられてもらおうと言う訳だ。
触手は汚れない分まだマシだけど、スライムは洗濯がキツい。
かれこれ4回もこのトラップにかかったボクは、痛い程身に染みている。
「な、何だ姉貴……妙なオーラが出ているぞ」
「いや、色々と思い出してただけ……」
「仕事の話か?」
「まぁそんな感じかな」
千絋の質問攻めをあの手この手でかわしているうちに、応接間に着いた。
「重かったでしょ、先入って良いよ」
ボクはノックだけしてドアを開け、後ろにつく。
「……失礼しま……きゃあああっ!?」
かちり、と言う音と共に緑の魔法陣が浮かび、触手が千絋を捕らえた。
ボクはと言うと、持ち前の瞬発力で落ちる寸前のティーポットやカップを回収するだけの簡単なお仕事をしていた。
「……気絶してる」
捕まった千絋の頭上を見てみると、星やらひよこやらが高速で回っている。どこのゲームだ。
「え、このクールビューティー系子猫ちゃん誰!?初めて見たんやけど!?」
「……千絋って言うんだ。多分咲は後で殺られるよ」
鼻息を荒げて興奮する咲に軽く紹介する。
「……」
ショックで気絶しているのにも関わらず、懲りずに千絋の脇腹でうねる触手をボクは冷たい目で見ていた。




