ROG:2-2/来客なんて認めない
「どうしたの、クロト。なんか朝から高周波とか叫んでたけど」
「……とうとう澪に寝無菌がうつったからね、ちょっと殺菌しただけだよ」
「本ッッ当にすまないっス……」
「ちょっと!?僕そんなウィルス出してないし!!」
まさか千絋以外に寝起きを見られるなんて。リーダーとした事がなんたる不覚。今度から施錠しようかな。……あ、千絋に鍵を渡しておかないとダメか。合鍵って奴。
それにしても何だろう。今朝の料理当番は澪と寝無で、ボクが制止しなければとんでもない事になるハズなのに……
今日の朝ご飯は炒飯とポテトサラダ、挙げ句の果てゴマ団子まであった。なんで朝から食べるには少し重い料理があったのかよく分からない。分からないけど美味しかった。
「……寝無、なんで今日の朝ご飯……あんなに豪華だったの?」
食後のコーヒーをすすりながら、小声で寝無に聞いてみる。
「淋とトランが間違えて作ったんだってさぁ。今は二度寝してるけど」
あの2人には命を救われたよ、と言って彼は大きく息をついた。
……わーい!!間違いと言う名の奇跡だー!!
「……おはよ……う…………」
珍しく寝ぼけ眼を擦りながらやってきた千絋は、ボクと直角の所にある定位置に着いて……目の前の光景にしばらく目を見開いていた。
「姉貴、一度頬をつねってはくれないか?……俺、寝ぼけているのかもしれない」
「本当だよ、ちゃんと美味しかったよ。……あ、食べさせてあげようか?目の前の現実を認められないなんてかなりの重症だよ」
千絋にあーんしてあげたいあまり、つい色々と理由をつけたけど、よく考えたら寝ぼけに重症も何もなかった。まぁ寝ぼけてるなら気にしない……よね。
「え、あの、いや……い、いいっ!!」
照れてる。寝ぼけてるのに照れてる。なんだか今まで見た中で一番可愛い。
「またまたー、本当はして欲しいんでしょー?ほら、あーん」
千絋の意思にはお構いなく、ポテトサラダをスプーンですくって差し出してみる。
「……む」
た……食べた!?
寝ぼけって凄い。あの千絋がここまでデレデレになるなんて。
「……可愛いなー……」
「今日のドン、どんだけ寝ぼけてるんスか……?」
「……咲菌でもうつったんじゃないの?」
「うつってないっ!!」
とうとう澪や寝無にまで変な目で見られてしまった。
……時紅に見られなきゃ良いんだけど。
「……ねぇ、そういう澪もほっぺつつくのやめたらどうなの?」
「いやぁ……なんか……気になって仕方ないんスよ。なんか餅みたいっスね、淋そっくりっス」
さっきから澪は千絋の頬を小指でつついてはにやけている。
そういや寝起きを見られた時もこんな感じだった、と思い出して顔をしかめた。
……それと同時に、猫の鳴き声が食堂に響く。
「こんな時に来るなんて、物好きなお客様だね。ほらクロト、行ってきなよ」
ぼーっとしている千絋からスプーンをひっこ抜き、ボクは窓を開けて飛び降りた。
荒々しい風と雪で頬が痛くなるのを我慢して着地すると、入り口まで回って門を開く。
そこにいたのは__
「ようクロト!!元世界最強、ただいま到着だぜっ!!」




