ROG:2-1/暇人が引き起こした怒り
小刻みに窓ガラスが震え、風が吹く度に不愉快な音が耳を刺す。
ついさっき滋賀県全域に風雪警報が出され、高校は休みになった。外に出ようにも、風は強いわ雪が積もっているわで出られやしない。
「…………暇だ」
本を閉じる。長い間本棚の奥で眠っていたせいか、少し埃が舞った。
持ってる本は全て読み飽きたし、かといってあの絶望野郎……寝無に借りるのも癪だし。
「……ドンにでも借りるか……」
我ながら良い事を考えついた。
全てのジャンルにおいて膨大な知識を持つあの人の事だから、きっと色々な本を持っているハズ。確か「クズでも分かる!狙撃入門」とか言う本も出してた気がするし。……狙撃なんてやってるとこ見た事ないけど。
「……行こう」
ボロい椅子から立ち上がると、あたしは部屋を出た。
なんだかよく分からないけど格好良い武器が掛けられた黒い壁に、血痕がいくつも見られる白い床。
所々に置かれたガラス張りの棚の中では、これまでの探検で見つけたらしいお宝が隙間なく並べられていた。
入った所には松明も置かれていて、団員の部屋とは全く違う威圧感を放っている。
例えるなら、ボス部屋の様な部屋だった。ちなみに入るのは5回目。
「失礼するっスよー……って、寝てる……」
奥の方にあるベッドで、ドンは抱き枕を抱きしめながら猫柄の毛布を被っていた。規則正しく寝息を立てるその姿は、どこからどう見ても女の子だ。
「……」
9時だと言うのにも関わらず、全く起きそうにない。
昔は夜の仕事ばかりしていたんだ、夜更かしには慣れてるハズだろうに。
昨日は2時まで起きてたみたいだけど、いつもそれぐらいに寝ては6時に起きるじゃないか。
……よし、ここは心を鬼にして起こそう。一人だけ朝飯も食わずに寝たままなんて見てられない。
「えい」
「……くぅ」
とりあえず指で頬をつついてみる。
反応なし。反応なしだけど触り心地が素晴らしく良い。マシュマロみたいだ。
「うりうりー、起きるっスー、朝っスよー」
一回だけじゃ効果が無さそうなので、何度もつついてみた。……別にハマったとかそういう訳ではない。
「うぅ……起きるって……起きるから……千絋やめてよー……なんかいつもと違う…………って」
幸せそうに言い訳をしながら目を擦ったドンは、目を開けた途端に顔を真っ青にさせた。
「ふーん。ドンってばいっつも千絋ちゃんに起こしてもらってるんスねー?」
こんなドンを見るのは初めてだから、つい意地悪な事を言ってしまった。
「……あ……あぁ……」
わなわなと肩を震わせて、彼女はベッドからローリングアウト(※転がり落ちるの意)した。
そしてベッドの下を漁ると、ごてごてに装飾されたメガホンを取り出す。
「は……『high frequency』!!」
かなり動揺しているのか、ドンは涙目になりながら叫んだ。
「熱っ!!あっつ!!ちょっ!!やめ……やめてくれっスぅぅぅ!!」
途端に身体が蒸し焼きにされるみたいに熱くなる。確か「high frequency」は高周波って意味だったハズ。
……何故かあたしは『高周波料理器』と言う言葉を思い出していた。
「……ねぇ澪。この事は言わないって約束する?」
ついに声までもを震わせて、彼女は笑う。
あんなに可愛い寝顔を見せていた女の子から、一番出ちゃいけないオーラが出ていた。
「言わない!!言わないっス!!言わないっスからこれやめて下さいぃぃぃ!!」
悲痛な叫びは、拠点中に響いてねぼすけ共を叩き起こしたと言う。




