最後への予告
目を覚ますと、曇った夜空から溢れ落ちた涙が小さく窓を叩いていた。
「……えーと、どこ入れたっけ」
変な時間に起きた所で、ロギに渡された封筒の事を思い出した。暗い部屋ですっかり荷物の減ったリュックを漁る。
そう言えばアレ、どこに帰ったんだろう。
と言うか……檜はどうやってあんなのを捕まえたのか。
「……謎だなぁ」
ぼんやりと、塾に帰る前の事を思い出し始めた。
「……クーロトー!……ん?何その封筒。ワイロ?」
キツネ探しから戻ってきて早々、咲はボクの持っている封筒に気づいた。何故か一緒に追いかけて行ったハズの檜はいない。
「……ワイロって何?」
「こら咲、変な事こんなとこで言うなよ!」
「ちぇー……」
心配していた矢先、多少土に汚れながら檜は戻ってきた。
「……え」
「……ふーん、そうなのかにゃ」
彼女は耳と尻尾の先がピンク色、九本尻尾のあるキツネ……キュウビを抱えていた。暴れる様子はなく、たまに檜を見上げてはこくこくと頷いている。……話しているのだろうか。
「ロギ起きて、檜がキュウビ捕まえてきたよ」
シートのすみっこで寝転がっていたロギをぺちぺち叩く。
「うーん……どうかした?」
「ほら、あれ」
「にゃあっ!?」
檜を指差すと、キュウビはこちらに気づいたらしく駆け寄ってきた。
「……コフー……」
「キュウビって本当にいたんだねぇ……ってうわっ!?」
ロギが触ろうとすると、不機嫌そうに火を吐いた。
「はは、嫌われてるね」
ボクが頭を撫でても、キュウビは嫌がる様子を見せない。……なんでこんなに大人しいのか。後可愛くてもふもふだ。
「……なんか僕だけ扱いが酷いね」
「そりゃワイロ渡すぐらいやからなー」
「だからワイロとか人前で言うなよ!!」
「いや、ワイロじゃないからね!?」
いつの間にか咲とルートが顔を覗かせていた。
キュウビは咲と目が合うと、
「……キュウ……」
何やら弱々しく鳴いて逃げ出した。
「なんであっしになると逃げんのさー……」
「おーい……ってあれ、いないに……逃がしたにゃ?」
「そ、そういや緋煉もいないよなー」
明後日の方向を向くと、咲は震えながら言った。
『咲が逃がしましたー』なんて言ったら間違いなく色々と危ない目に遭うハズだ。よし、言わないでおこう。
……すぐ近くに緋煉がいた事も。
「……帰ろっか」
この状況に耐えられなかったのか、ロギが小さく言った。
結局「ワイロ」の意味は教えてもらえなかった事はともかく、キュウビに逃げられたのはかなり惜しかった。もしあのもふもふな頭を触れる機会があれば、絶対に捕まえよう。
「……あった」
そうこう考えているうちに、少ししわくちゃになった封筒を見つけた。
中身を見てみると、小さな紙が二つ折りにされて一枚あるだけだった。
何故こんな封筒に入れる意味があったのか、と疑問に思いながら紙を開けてみる。
『少し話がある。23時……半ぐらいに、またあの桜の木の下で。人もいないと思うから』
「……!!」
時計は23時を示していた。
今更になって、あの時の声……未来予知を思い出す。
嫌な予感がして、胸の鼓動が速くなる。
「行かなきゃ……っ!!」
見つかったらどうしようとか、何かされるかもしれないとか、そんな事には目もくれずに部屋を出た。




