閑話:純粋少女と未知なる彼女
こう言うの見たい人が!!世の中にはいるからね!!
アロマキャンドルの火が少し小さくなってきた所で、ボクは一旦休憩する事にした。
「姉貴……最初に仲良くする対象を間違えたのか?」
「そうそう。あの変態同性愛者とクロトが幼なじみとか考えられないよ」
「……死ぬ気で悔しいけど絶望野郎に同意っス」
「失礼だなぁ。あれでも一応ボクの大事な人だよ」
喉に良い薬草が嫌と言う程ブレンドされたハーブティーに、これまた喉に良いハチミツを入れて飲み干す。声優とか歌手じゃないけど、武器の特性上喉の調子には気を遣わないといけない。ちょっと面倒だ。
「……今頃、どうしてるかなぁ」
別に長年会っていない訳でもないけど、なんとなく呟いた。
冷蔵庫第3号から牛乳を取ろうとする。
「へぶしっ!!……なるほど、どっかの美少女があっしが超絶イケメン女子だって噂してんのな!!ぐへへぇ……」
あっしってばほんまに罪深い、と悶えていると、脱衣所のドアが開けられた。
「……頭の中はお花畑かに?そんな格好してるからに決まってるにゃ。早く上着着なきゃ風邪ひくに」
入って来るなり不機嫌そうな声で彼女……檜は上着を差し出してきた。
まるでリンゴの花みたいに白い髪に、色白の肌。少し垂れ気味の茶色の目。体が小さいのに大きな薄緑のパーカーを着ているせいで、手が袖で隠れたり時おりシャツが見えたりとロリコンとしては理性が弾け飛ぶぐらいの幼さをかもし出している。
「……」
「な、何するにゃこのドヘンタイ!!早く服着るに!!」
純白のスカートをめくろうとすると、思いっきり頭を叩かれた。
「いや着てるけど!?檜も視聴者へのサービスシーン欲しいやろ!?」
「要らないに!!それどこの番組だにゃ!!」
「そりゃ水曜どうでしょ……ぶへっ!!」
懲りずに頭に生えている芽を引っ張ろうとすると、高速移動で避けられた。内心で悔しがっていると、またドアが開かれる。
「あー、るっせぇな……おまいらは静かに出来ねぇのか?」
ぼさぼさの黒い髪は、左目を隠している所だけ毛先を黄に染めている。しかも青いセーターの上に黒い特攻服を着ているから、暴走族にしか見えない。
耳を塞ぎながら、何故か彼女……テトは顔を歪めていた。
「『痴漢されたら大声で叫べ』ってテト姉が自分で言ってなかったにゃ?」
「確かにうちはそう言ってたが……それ痴漢じゃなくてただの愛情表現だろ」
「YES!!」
「にゃっ!?」
威勢良く答えると、檜の頬は薔薇みたいに赤く染まった。うん、可愛い。
「……はいはい、咲は早く出ろ。檜はもうそろそろシャンプー切れるから補充しとけよ」
「りょ、了解したにゃー」
「何だよー、あっしがリーダーなんやぞ!?」
「んー?先生の言う事が聞けねぇのか、……『咲ちゃん』?」
にやけながら、昔の呼び方で呼んできた。
「き、気持ち悪りぃぃ!!」
背筋がぞっとする。あっしはすぐさま脱衣所を出た。
「全く……なーんでこうなるかねぇ…………」
タオルで頭をがしがし拭きながら、ぼんやりと昔の事を思い出していた。
鮮明に覚えてるのは人が死んだ事、檜の事……
そして小さなあっしの嫁の事。
「どうしとるかな……そうだ、明日にでも会いに行ってやろうかねぇ……?」
壁に掛けたデジタル時計の画面には、20:17と表示されている。
「……よし、行くか!!」
早速準備しようとすると、拳骨を落とされた。この尋常じゃない痛み……テトだ。
「痛ってぇなー……」
「やめときな、近所迷惑だろ」
虎みたいな金色の目で睨まれると、どうにも逆らえない。
「むいー……」
責めてものお返しにと不満の声をあげると、彼女は呆れてため息をついた。
「……ほら、水やりしに行って来い」
「おう!!」
いつものモグラジョウロを持つと、廊下を抜けて薄暗い自分の部屋に入る。
長机の上は、女の子同士の漫画やらだいぶ昔に流行ったライトノベルやらが散乱している。机の上の空間は大きな棚が壁にめり込んでいて、どうにも奇妙だ。棚の両端からは、小さな台を壁に埋め込んだのが螺旋状に天井へと続いていた。こんな芸当が出来るのも、テトの馬鹿力と三角錐形と言う奇っ怪な部屋のおかげだ。
「……にへ」
台の上には花瓶がある。少しの土と宝石と花がひとつずつ入っていて、個人的には最高の組み合わせだった。
「にゃふー……」
近くに置いていた脚立を開いて、上から水をやっていく。
ガーデニングとか農業とか、植物に触れるのはとにかく好きだ。こうして朝と夜に水やりするのがあっしの日課である。
「……むぅ」
全部に水をやり終えると、やっぱり色々と昔の事を思い出してしまった。
「……しゃーなしやな。明日会いに行くか」
脚立を折りたたみ、ぽつりと呟いた。
「テトがガミガミ言わなきゃよいんやけどなぁ……」
またあの拳骨を落とされるかと思うと、ぞっとする。
ため息をついて、あっしはリビングへ向かった。




