半信半疑の出発
お花見の日は雨と予想されていたけど、いざこの日が来ると予報外れの曇りだった。
「適当に準備してから外に来いって言われたけどにゃー」
「あっしら別に用意する必要なんかなかったよなー」
「俺と緋煉に全部持たせてるからだろ!!この扱い酷くないか!?」
「カナシイデス」
パンパンのリュックを背負いながら、ルートが涙目で叫ぶ。精神的なダメージが酷いのか、緋煉はさっきから『カナシイデス』としか言わなくなっていた。荷物を持っただけでここまで傷心する人は、きっとこの先見ない事だろう。
「……酷いなぁ」
……とは言うけど、実はボクも植物図鑑を入れていたりする。
「なぁクロト、さっきから思ってたんやけど……その本何なん?」
本……ああ、今持ってる奴の事か。
「これ?護身用。ここに書いてある事を順番通りにやれば小さい雷を起こせる。まだ現代魔術を使えない子供向けの魔術書(グリモワール)って奴だよ」
他の三人も興味津々らしい。とりあえず確認の意味も含めて、仕組みを簡単に説明した。
「すごいにゃー、そんなのどこから引っ張ってきたんだに?」
「ポルカに貸してもらった」
「ふーん……クロトは現代魔術師になりたいのか?」
「……まぁね」
力仕事は出来るけど、現代魔術も覚えておいた方が良い。殺し屋になるなら、色々攻撃方法を覚えておかないといけないだろうし。
……と言うのをポルカに伝えると、案外すんなりとこれを渡された。ボクの事はもう諦めたのだろう。それはそれで良いんだけど。
「……じゃ、そろそろ行こうぜ。ロギさん待たせてるかもしれないから」
「うん」
忘れ物がないか確認してから、先を歩くルートに四人でついていった。
人混みが苦手だから、朝の通勤ラッシュは困る。こうしてじっとしているだけでも、やってくる人の群れにもまれて人酔いしそうになる。
しばらくして、両手にビニール袋を持ったロギがやって来た。
「やぁ。皆……これはまた大荷物だね」
「こいつら自分で持たないんですよ……菓子ばっか詰めても食い切れないのに」
「うっせーよ兄貴!!夢はいっぱい詰めといて損はねーのっ!!」
「……?咲はお菓子になりたいにゃ?」
「違うぞ、檜。こいつの夢はただのヘンタイになる事だ」
「ふにゃっ!?」
「ちげーし!!あっしは……うー……な、内緒だ!!」
そんな三人のじゃれ合いを見て、二人で苦笑いする。
「カナシイデス」
勿論緋煉は全く立ち直れていなかった。
「……クロトちゃん、緋煉君はどうしたの?」
「……精神的なショック」
「え、それだけであんなになるの?……も、持ってあげたいのはやまやまなんだけど、僕はクロトちゃんの対策で忙しくなりそうでね」
……そう言えば、人混み対策してくれるって言ってたっけ。
「対策ってどうするの?」
ロギはふふんと笑って屈む。
「……何?」
「何って、肩車だよ。……ああ、安心して。僕結構背が高いから。これで足も疲れないし人に紛れずに動けるしで一石二鳥でしょ?」
『えー……もっと結界とかそういうのを期待してたんだけどなぁ……』
なんて言えない。ずいぶんアナログでしかも効果が無さそうな方法だけど、ロギが善意でやってくれてるんだし断る事は出来ない。
「……お……お願いします」
「うん、任せて!」
そしてボクは半信半疑になりながら、ロギに近づくのだった。




