それが訪れる前に
その日から、ボクはあまりポルカと顔を合わせなくなった。
咲やルートに連れられて遊ぶ事が多くなったからって言うのもあるけど、やっぱりどうしてもお互いを避けてしまうから……が一番の理由だろう。
……仕方がないんだ。あれが本当の事だし、下手な嘘はつけない。
『復讐は何も生まない』?
それがどうした、何も生まなくたって良い。復讐の後は死んでいくだけだから、何が生まれようと生まれまいとボクはどうでもいいんだ。
ああ……本当に憎い。
自分を捨てた『奴』の、失望を映した紅い目を……ボクは死ぬまで忘れないだろう。
いくらこの世に人が溢れているからって、あんな目をした奴はいない。すぐに見つかるハズだ。
「……クロトちゃん?」
「……大丈夫、聞いてる」
「どうしたの?最近様子おかしいけど……」
「……何でもない、から」
ボクがそう言うと、ロギは大きく息をついた。
「ああ、なるほど……ポルカさんと何かあったんだね」
「……知ってるの?」
「いや、詳しくは全然知らないけど……昨日話した時、ポルカさんも全く同じ顔してたから」
同じ……だとしても、考えている事は真逆だろう。
「いつかは仲直りしないと駄目だよ?」
顔をしかめると、ロギはボクに笑いかける。ほんの少しだけ、気が楽になった気がした。
数学の授業が終わると、ロギはこんな話を持ち掛けてきた。
「……そうだ、もう桜が咲いてるとこがあるんだって。今度一緒に行きたいなーって思ってるんだけど……どうかな?」
「何それ……妖怪桜?」
「残念。普通の桜だ。……まぁ確かに3月になったばっかりだし、そう思うのは分かるよ。……で、どうする?行く?」
今まで外にはほとんど出たりしなかったから、桜なんて本の中ぐらいでしか見た事がない。当然興味もあるし行きたいとは思ってるけど……
「……人いるよね、絶対」
「そりゃいるよ。心配なら、ちゃんとそれ用の対策しておくけど」
次の瞬間ばたん、とドアが開かれる。
「よー、クロトー!」
「……緋煉(ひれん)?なんでここに」
ドアの前には白髪に赤い目を持つ、紺のトレーナーを着た男の子がいた。彼は咲の遊び仲間で、ボクもたまに話をする。
「へっへーん、話は聞かせてもらったぜっ!」
楽しそうな緋煉の声を合図に、後ろから咲達が飛び出してきた。
「そんな面白そうな話を聞いた以上はしゃーなしだ、あっしらもストーカーするぞ!!」
「やめるにゃー、ストーカーは犯罪だに!」
「お前ら、フツーについていくって言えないのか?……すいません、ロギさん。こいつらも一緒に行きたいらしくて……駄目ですか?」
ロギは呆れた顔をしていたけど、しばらくしてぽん、とボクの頭に手を乗せる。
「……決まりだね、クロトちゃん。明後日は皆でお花見だ」
「……うん!」
子供みたいに笑うロギに、ボクは笑ってそう返した。




