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BORDER:ARRIVE ~絶対少女と不可視の境界~  作者: GAND-RED
ROG:1/最強少女と過去と雨
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病の代価

「……おーい……大丈夫かー?」

「……う……」

意識を取り戻すと、すぐ近くに彼女はいた。

異能者の中では珍しい黒い髪。耳の周りだけは、何故か赤と青に染められていた。毒々しい紫色の目は、心配そうにと言うよりも、興味だけでボクを見ている気がする。意識を失う前とは違って、黒い防寒着を着ていた。

一旦離れてもらって、周りを見渡す。

窓は白いカーテンに閉ざされていたけど、白いのはカーテンだけじゃない。ドアも壁も、何もかもが白い。ボクにとっては見慣れた所……病院だ。

「……痛っ……」

声を掛けようとした途端、頭痛が襲う。つい声が出てしまった。

「ん?……ああ、そういやクロトはあっしと同じ病気やったな。親近感湧くわー、つか親近感より好意湧くわー。あ、あっしは咲っちゅうんよ、よろしゅうな」

独特な話し方で言い終えると、人の良さそうな笑顔を見せた。どう返せば良いのか分からずにいると、ドアが開けられる。

「咲ー、ポルカ姉が呼んでるぞ」

「ん、分かった。じゃあ兄貴、説明頼むわ」

じゃあな、とボクに手を振り、彼女……咲は外に出ていった。代わりに兄貴と呼ばれていた男の子が入って来て、近くにあった椅子に座る。

髪の毛は紫、目の色は黒と、咲と対照的だ。肩当ての付いた茶色いコートを羽織っている。身長の高さもあって、凄く強そうに見えた。

「全く、説明とか別にないだろ……ごめんな。うちの妹、変な事をよく言うんだよ」

苦笑いの後、ぺこりと頭を下げてきた。やっぱりどう返せば良いか分からない。

「……そう、ですか」

「あ、そんなに緊張しなくても良いよ。普通に話してくれて良い」

……普通に話せ、と言われても困る。ボク自体まともに他人と話した事がないのに、どう話したら良いんだろう。

……あれ。

名前、何だっけ。

「……」

「あ、そういや名前教えてなかったな。俺はルート……ん、どうかした?」

「……いや、名前はどこかで聞いたんだけど……思い出せなくて」

それを聞いてルートはしばらく唸っていたけど、やがて思い出した様にぽん、と手を叩いた。

「……なるほど。病気の事はポルカ姉から聞いてる。確か……突然吐血したり意識が無くなって、起きると身体が動かせないとか、記憶が抜け落ちてたりするとか、そんな感じだよな?」

「うん」

「で、クロトが俺の名前を思い出せなかったのはそれのせい。けど俺が教えたからもう大丈夫。よし、問題解決だ!」

……問題でも何でもないじゃないか。口に出さず、ただ押し黙る。

この人、何なんだろう。

そんな気持ちを視線に込めると、またぽん、と手を叩いた。

「言うの忘れてた。今日から3日は入院だって」

「クロトさあぁぁん!!」

言い終わるか終わらないかのタイミングで、病室のドアが開けられる。この声は……

「っ!?」

答えを出そうとしたその瞬間、いきなり抱きしめられた。……ポルカだ。うん。

「ぐす……良かったぁ……何時間経っても起きなかったんですよ!?……さっ、咲さんから話を聞くまで本当心配してたんですからねぇ……!!」

「い、痛いってば……」

腕に込められる力は異常に強い。それも、ボクを締め殺すつもりなんだろうかと思ってしまうぐらいだ。

「ポルカ姉、気持ちは分かるけどほどほどにしてやれよ。クロトが死にかけてる」

大げさ気味にルートが言うと、ばっと解放された。

「うーっす」

「お、起きてる!」

「本当に起きてるに」

「いや、あっしそんなとこで嘘つかへんし」

見計らったかの様に、咲が部屋に入ってくる。後ろに2人、人がいるのが見えた。

「えーと……ポルカ」

「礼ならこの子達にどうぞ。皆が教えてくれなかったら、私は気づけなかったんですよ」

誰かがふふん、と鼻を鳴らしていた。咲だろうか。

「……何で?……ボク、全然他の人と会ってないよ」

「会ってなくても、この子達……いや、塾の皆はあなたが塾に来た頃から見てたんですよ。……咲さんが一番気にかけてましたね。今日だって泣きながら『全然動かないし身体も冷たいしこのまま死んだらどうしよう』って……」

「だあぁぁもうっ!!うっぜぇ!!ク、クロト!!あっしはそんな風に言ってないからなーっ!!」

「あ、こら!!暴れるなって!!」

耐えられなくなったのか、咲は顔を真っ赤にして叫ぶと一目散に逃げ出した。それをルートと二人組が追って、部屋はボクとポルカの二人きりになる。

「やれやれ……元気過ぎるのも困りますねぇ」

苦笑いすると、ポルカは中途半端に開いていたドアを閉めた。

「……ポルカ、帰ったら伝えといて」

「何ですか?」

まだ息苦しさが残っていたから、深呼吸して息を整えた。

「……『ありがとう』って」

彼女は驚いたのか、目を見開いて黙っていた。しばらくして、静かに笑う。

「……分かりました。後、退院するまでコオロギさんがここでお話してくれるそうですよ」

「……分かった」

不意に抱きしめられる。今度は全然痛くなかった。まだ少し血の付いた頬にキスをして、ポルカは呟く。

「……本当に、良かったです」

「……それ、こっちの台詞」

しばらくして、それに返した。



「じゃあ、私はこれで。退院する時はちゃんと迎えに行きますから、安心して下さいね」

「……うん」

ドアが閉められるのを見て、布団を被る。


……何も怖がる必要なんてなかったじゃないか。

皆がずっと見てくれていたのに気づかず、無視していた。その事を深く後悔した。

そして……それに気づけた事に、感謝した。

これもきっと、ロギのおかげなのかもしれない。

そうじゃなくても、あの人がボクを変えるきっかけになったのは確かだ。


「……本当に、ありがとう」


小さく呟いて、静かに目を閉じた。

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