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BORDER:ARRIVE ~絶対少女と不可視の境界~  作者: GAND-RED
ROG:4/この狂った世に終止符を
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仇花のキュリオス

瓦礫の上を走っていると、地面が揺れた。前につんのめりそうになったけど、澪がとっさに手を貸してくれたおかげでなんとかこけずに済んだ。

「……くっそ、さっきから何だよもう!!空の上なんだから地震なんかねぇだろ!!」

「どう考えても誰かが戦ってるって事でしょ、揺れが強くなってる。多分この先だ……ッ!?」

通路の左側にあった扉が、電撃と共に吹っ飛んだ。

瓦礫が紙の様に飛び散り、天井が大きな音を立てて崩れる。

「せっかく治したのにまたやらなきゃいけないのか……面倒だなぁ」

どうやら、敵がいるらしい。卍鎌を構え、砂煙が収まるのを待った。

「……口だけのザコだった。つまらんな」

ずいぶん開けた空間に、緑色の髪をした女の子がボロボロになりながら立っていた。

女の子から少し離れた場所には、折れた巨大な包丁が落ちている。

「……テメェ!!淋に何した!!」

「待って!!」

それを見た澪は激昂し、僕の制止も聞かずに飛び出していく。

砂煙が完全に晴れた。女の子の前に、隠されていた人影が見える。

「イーヴェはトランとリンを殺したし、クウを怒らせたね」

……薄々予想していた事は、どうやら本当にあったらしかった。

「その様だな」

イーヴェと呼ばれた緑髪の女の子は、棒読みで答える。

「……もう、ゆるさないから」

クウと言う名前。クロトによく似た顔立ち。鎌と化した両腕。

間違いない。あの子が「黒棺 クウ」だ。

……しかし、どうしてトランと淋の名前を知っているのだろうか。


「殺しただと!?」

「澪、落ち着いて。……探してた子がいるんだ」

「落ち着ける訳ねぇだろ、くそっ……離せよ……!!」

「今離したら澪も死ぬかもしれないでしょ。それなら僕は離したくない」

大人しく僕の腕の中にいてもらう方がいいのだ。

クウはクロトと同レベルの力を持っているかもしれない。その攻撃に巻き込まれたら、間違いなく死ぬ。

二人が対峙している様子を見守っていると、クウの身体に異変が生じた。

背中から羽根を撒き散らしながら赤い翼が生え、うっすらと光を放っていた鎌は、一気に黒くなり膨張し始める。

やがて膨張した鎌は巨大な手になった。金属的な光沢は無くなっており、銀色の線が血管の様に伸びている。

「……それ、どうするつも……」

「殺すつもりだよ」

イーヴェが言い終える前にクウは彼女の後ろに回り込んでおり、巨大な手を振り落とした。

真っ黒な手はぐにゃぐにゃと溶けてイーヴェを包み込む。その様子はさながら捕食している様に見えた。

「何だ、あいつ」

「クロトのクローンだと思っていいよ。あの子は、異能者区域の侵略に使われる予定の子なんだ。……トランと淋の事を知ってるし、僕達の味方みたいだけど」

黒い手が元に戻った。そこにイーヴェの姿はない。クウは茫然と立っていた。

澪がクウの元へ駆け寄ろうとして、何か落ちているのを見つける。

「……これ」

澪の手には、淡い光を放つ雪の結晶が収まっていた。

僕もその近くで炎を結晶にした様な石を見つける。拾い上げて眺めると、内部で微かに揺らめいている炎が見えた。

「こんな姿になっちまったのか、あいつらは」

「……それでも、何も残さずにいなくなるよりはずっといいんじゃないかな」

僕達はただ静かに泣いていた。

それを見つけたクウが、こちらにやってくる。

「……おねーさん達は?」

「あたしは澪。んで、こっちがネム。トランと淋の親……とでも思ってくれたらいいっス」

涙を拭いながら、澪はそう言った。

彼女達は形を変えてここにいる、そう思い直したんだろう。強い子だ。

……でも、僕は諦めたくなかった。人工クリーチャー……モンスターは、擬似的に作った世界の核が元となっているハズだ。情報をいじれば、甦らせる事だって出来るかもしれない。

「……ごめん……クウ、イーヴェとめられなかった、リンとトラン……死なせちゃった……!!」

ぺたんと座り込み、泣き出したクウの涙を拭ってやる。

「……大丈夫。いつか絶対戻ってくるハズだから」

「ネム……?」

「元がクリーチャーなら、ちゃんとした手順を踏めば再構成出来るハズだよ」

「本当に!?」

「それマジかよ!?」

クウと澪は身を乗り出してきた。

「そのためには資料が必要だ。……クウちゃん、この先に誰かいるとか分かる?」

クウは目の前の巨大な扉を指さし、ふるふると首を振った。

「チヒロとジグがいるけど、鍵わたしちゃったから先に行けないんだ……」

「だったら壊せばいいだけの話やんね」

この場にそぐわない奴の声がした。

「咲ちゃん!?」

花が溢れたリュックを背負った咲は、ハンマーを片手にバク転しながらこちらにやってきた。

女とバレてからこいつには嫌な事ばかりされたので、非常に気分が悪い。

「……誰?」

きょとんとした顔で尋ねるクウに、咲は人懐っこい笑顔を見せる。

「クロトの友達よ。……見てな、あっしの子猫ちゃん達!!どっせぇい!!」

そしてバカみたいにハンマーを振り回し、扉にぶつけた。

空気がビリビリと振動する音に眉をしかめる。

鋼鉄の扉に、ハンマーのサイズと合わない大きさの穴が出来た。

「ほら、行くぞ」

「……あんた、何しにきた?」

手招きをする咲を睨みつける。

「ははは、ネムちゃんも変な事聞くなぁ。

……仇討ちに決まってんだろ」

咲は笑顔のままぞっとする様な声で言うと、暗闇に消えていった。


……やっぱりあいつは、理解不能の塊だ。

咲の存在はホラーって事で。

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