従壊のライヴァント
「ふっ……とべぇ!!」
クウが鎌になった腕を振るい、無数の衝撃波を生み出した。
ヒアルは砂で壁を作ったが、それは一瞬で崩れる。
「……なるほど、敵に回すと確かに恐ろしい事になりますね……」
天井にあった電灯は、全て割れて落ちていた。壁には大きな裂け目がいくつも出来ている。
「……それでも倒す。これ主も望んでるコト」
「うっさい、無駄口叩いてたら丸焼きにするヨ……イブリス・インパクト!!」
こちらに飛んできたヒアルとイーヴェの腹に両拳を突き出す。巨大な炎の柱が生まれ、更にその周りに炎が輪の様に広がった。
「ホーミングフリージア!!」
宙に浮いた二人に、追い打ちを掛ける様に鋭い氷の弾雨が降り注ぐ。
「……ブが悪いぞ。どうする?」
「落ち着いて下さい、イーヴェ。
……『君の瞳はどんな人間も殺せる剣なのだから』。私はどうなっても、貴方の力になりますよ」
地面に打ちつけられ、ボロボロになっていると言うのに二人は何でもない様に話している。
「そうだ、あれあった。使えばいいか」
イーヴェは血が流れるのもお構い無しに氷の杭を引き抜いた。
「我々、こんな事ごときで死ぬ訳がない」
そして何の感情も感じられない顔で、あろう事かイーヴェはヒアルの胸を素手で貫き、自分の右目にもう片方の手を突っ込んだ。
「え……」
「イーヴェ、何してるの!!そんな事したらヒアルが死んじゃうよ!!」
「何度言わせる。我々は死なぬ、どの様なカタチでも生きている。……ワカラナイか?」
髪で隠れていて、右目がどうなっているのかは見えない。頬に血が流れて、ぼたぼたと垂れているのは確認出来た。
「どこで育っても仲間殺しは同じアルか……これだから人工の奴らは嫌いネ」
右目に突っ込んだ手にはグロテスクな鍔の付いた赤い剣、ヒアルを貫いた手には砂礫で出来た盾が握られていた。
「説いてもキカヌ馬鹿ばかりだ。ヒトに落ちぶれたヤツはつまらない」
無表情のままに距離を詰め、そのまま上段から切り掛かってきた。そんなモノで掛かってきても意味がない。
「効く訳ねぇアル!!」
右のナックルに着火し、燃え盛る手で剣を掴む。
「お前、何した?」
剣はぐにゃりと歪み、すぐに使いモノにならない状態と化した。
「見て分からないアルか……そのグロいのを使えなくしてやっただけネ!!」
「ちっ……」
獲物が使えなくなったと分かると、イーヴェはとっさに盾を振りかざす。
「お次は防御ッ!!」
左のナックルに電流を纏わせ、盾に拳を打ち込んだ。
砂礫で出来た盾は呆気なく破れ、拳は勢いが衰える事なくイーヴェの顔面にヒットした。
「……なかなかやるな、サスガ元同類よ」
砂煙をあげながら派手に吹っ飛んだイーヴェは、ゆらりと立ち上がる。
衣服は焼け焦げ、身体には殴打された痕や裂傷が無数に出来ていた。
人工のクリーチャーはタフなのが売りだ。こんなんじゃ死なない。
それはオレ達も同じで、ミンチになるまで動き続ける事が出来る。
「……イーヴェ、戻って……おねーちゃんの言う事聞けないの!?」
「主の言う事がキケナイ奴、従う意味ない」
「……なら、仕方ないね」
クウは今まで見せた姿からは想像もつかないほど冷たい目をすると、鎌で斬り掛かった。
「きゃっ……何!?」
……次の瞬間、クウはバックステップでこちらに戻ってくる。鎌はドロドロに溶け、地面に垂れて鉄の水溜まりを作っていた。
「……『ガクシュウシンカノウリョク』。それが我々に与えられた力」
無表情だったイーヴェは、残虐な笑みを見せた。
「だったら、私が……!!」
淋が包丁を上段に構える。
刃の纏っていた冷気が一気に強くなり、淋の周囲にあったモノは例外なく凍てついた。
「……」
背丈ほどあった包丁が淋の身長の何十倍はある巨大な氷塊に姿を変える頃、彼女からかなり離れた場所にいるイーヴェは足まで凍りついていた。
「ここで一生凍っててもらうよ……フェンリルブロウ!!」
淋は巨大な氷塊を思いきり地面に振り落とすと、無数の氷の棘が一直線に走った。
それに続いて狼を象った冷気がイーヴェに迫ってくる。
「グラン・ジーニアス」
後もう少しで冷気が辿り着くと言う所で、連続して起こった爆発が全てを溶かした。
狼を象った電撃が、淋のそれを遥かに越えた速度で駆けてくる。
「チキショウがっ!!……うおおおお!!」
電撃が辿り着く前に、オレは淋の前に立った。
広がる光はあまりにも神々しくて、眩し過ぎて、目を閉じたくなった。
それでも、目を閉じてはいけない。
……淋を死なせてはいけない!!
「イグニート・フルフレイムッ!!」
炎の弾丸が無数に生まれ、電撃に向かって撃ち出されていく。
それでも電撃の勢いは抑えられず、目の前の光は眩しさを増すばかりだ。
……光が残酷なモノなんて、聞いてない。
涙が溢れそうになったその時、声が響いた。
「__ティンクルダスト!!」
星型の氷結晶は、炎の熱をものともせずに電撃に立ち向かっていく。
驚いて隣を見た。
「……私達はどうなってもずっと一緒だって……そういう約束、だったよね」
淋は泣きそうな顔で、無理に笑っていた。
「だからさ……泣かないでよ、トラン……」
その笑顔は、やけに眩しかった。
「……そうだネ」
「トラン!!リン!!」
電撃が弾ける音にも負けずに、クウが叫んだ。
崩れ落ちそうになった淋の身体を抱え、呟いた。
「__悪いネ、後は頼むアル」
あまりに眩し過ぎて、オレにはもう何も見えないけど……腕の中の淋は、どんな顔をしているだろうか。
__もし笑ってくれていたら、オレはとても幸せだ。




