ACT:4-8/牢獄のデュアリング
クウについて施設を歩く中、俺はいくつか気になる事を質問する事にした。他の皆もいきなり現れたこの子に多少の不信感を抱いているだろうし、何か聞く事で姉貴について新しく分かる事があるかもしれない。
「……君は、何で姉貴の事を知っているんだ?」
「姉貴?クロトはチヒロのおねーさんなの?」
瓦礫をうさぎの様に跳び越えるのをやめると、興味津々と言った感じでこちらを見てきた。
「いや、違う。そう呼んで欲しいと頼まれたんだ」
「そっか。クウはね、よくわかんないけどクロトの……ディーエヌエー?それがなかったら生まれて来なかったんだって!」
姉貴のDNA?この子は普通に生まれた訳ではないのか?
……そもそも、何者だ?
「……君は異能者か?」
それまで目を輝かせていたクウは、突然血相を変え声を荒らげた。
「違うよ、クウはコネクターだよ!!イノウシャは悪い人だってシニメ言ってたもん!!」
人間とは言わず、コネクターと名乗った。……いかにも人工物めいた名前だ、人造人間の類いだろうか。異能者を悪い人、と呼ぶ辺り、彼女は本来人間側につく立場かもしれない。
「……すまない。でも、異能者は悪い人達ばかりではない。姉貴も異能者だし、俺達も異能者だ」
「本当?じゃあなんでシニメは悪い人って言ったのかな?」
どう返せばいいのか迷ったが、正直に言う事にした。
「……俺達は死目に酷い事をされた。多分、仕返しをされたくないから、だろう」
こんな子供じみた考えは、俺の答えではない。
……何を企んでいるのかはある程度予想がついた。自分で生み出したモノをわざわざ放り出し、ここまでおびき寄せた上で駆逐しに行く様な人間は絶対にいないだろう。
戦闘のプロである殺し屋や俺達の不在、そしてポルカさんが眠っている間を狙って侵略行為に移るつもりに違いない。
「シニメは悪い人なの?」
「俺には、とても悪い人間に見える」
……そして恐らく、その侵略行為に必要なのがクウだ。人間側に味方されてしまっては、大変な事になる。そうならない様に、慎重に言葉を選ばなければいけない。
「やっぱり!シニメはいっつもクロトに会わせてくれないし外にも出してくれないんだよ、みんなにもシニメはひどい人だって言っても何も言ってくれないんだ!」
……この調子だと問題は無さそうだ。胸を撫で下ろした。
「シニメがみんなにひどい事してるならクウは許せないよ、やっつけるよ!」
「おおー、それは頼りになるアル!」
トランがクウに期待の視線を向けた所で、液体爆薬を調合していた時紅が声を掛けた。
「……おい、そろそろ行かねーか……あんまり無駄な時間使ってたら、クロがとんでもない事になるぞ……」
「す、すまない……」
「……千絋が考える必要があったんなら……別にいいが」
いつもの気が抜け切った顔でそう言うと、彼は液体が入った筒に火を付けて瓦礫の山へ放った。
鼓膜が破けると大変な事になるので、クウの耳を塞いでやる。自分の鼓膜は人より丈夫な上に破れてもすぐに治るし、特に問題はない。
爆音と共に粉砕された瓦礫の先に、錆びて汚れた扉があった。
何か嫌な空気を感じる。この先に何かがいるのは確実とみた。
「開け!」
クウが前に出て叫ぶと、砂埃を巻き上げながら扉が開く。
その先にあったのは、奇妙な空間だった。
床は砂地になっており、非常灯ではない普通の電灯が室内を照らしていた。高い天井には、見た事もない球状の白い物体が5つほど浮いているのが見える。白い物体はどれも焦げついていたり砂がこびりついていたりとおかしな状態になっていた。
人影は見当たらない。隠れているのではないかと辺りを見渡していると、何もなかった場所に突然人が現れた。
「……おや、クウではないか。何故ここにいる?早く死目の元に戻りなさい」
シルクハットを被り、燕尾服を着た金髪の紳士は穏やかに言った。
「ヒアル……イーヴェ?なんで外に出てるの?」
「こんな時に外出ない方がオカシイ、これ我々の意志」
黒いワンピースを纏った緑髪の少女は片言で反抗する。
この二人はクウと同じコネクターだろうか。
「ダメだよ!!二人とも戻っていい子にしてて!!イーヴェは特に出ちゃダメ!!」
クウは緑髪の少女に向かって怒鳴る。
それにもお構い無しに、イーヴェと呼ばれた彼女はトランと淋に目を向けた。
「……む。同志かと思ったがオカシイ。お前達、裏切り者か。何故主に逆らおうとする?」
「……理不尽に見捨てられたからアル。安全な環境にいたお前らには分からないだろうけどネ」
「だったら私どもが慈悲を与えましょう、この世界を支配するのは我々クリーチャーです。仲間は多い方が良いですから」
もう一人の紳士……ヒアルは穏やかに笑い、手を差し出した。
「い……嫌だ!!私はクリーチャーじゃないもん……皆と一緒に生きる!!」
「……そう言う訳で、お前らと一緒になるのは御免アル」
二人は警戒態勢を取る。辺りに冷気が漂い始めた。
ヒアルとイーヴェは顔を見合わせ、ため息をつく。
「……仕方がない。裏切り者には死あるのみですね」
「ハンギャクは認められない。主の意志尊重しないクリーチャー、いる意味ない」
「……チヒロ、ジグ、この先の部屋を進んだらクロトのいる所に行けるよ。クウはおねーちゃんだから……ヒアルとイーヴェ、止めなきゃいけないから!!これ、使って!!」
クウが投げたモノをキャッチする。それは六角形のカードキーだった。
「……ありがとう!!」
クウに礼を言って、奥にある扉へと走り出す。
……何かの呻き声が、少しずつ近づいていた。




