スープ
次の日、健翔たちの姿は王宮にある闘技場に集合していた。柚季、乃乃、瑠璃は見るからに憔悴しており、目には隈ができていた。健翔が訪ねても『これは、戦いの痕……』と言ってそのことに口を閉ざしたっきりだった。
彼らの前には筋肉が程よく筋肉がのっている騎士然とした男が立っており、頭をポリポリと掻くと、『ちょっと走っててくれ』といってどっかに行ってしまった。
しばらくしてから戻ってきた彼は大きなカゴにいろんな武器をカゴに入れて戻ってきた。
「よし集合!」
その声とともに健翔たちは騎士の元に集まる。彼らの走っていた時間は10分。だが全くもって疲れておらず、全員首を捻っていた。
「では、全員この中から武器を選んでくれ。その武器の特性によって戦い方がちがってくるからな。あ、でもこのなかにあるのは全部木で作られたものだから殺傷力はないから安心してくれ」
よっこらせと籠を下ろすとドォンと重い音をたて、健翔たちは唖然としたが、頭を振ると武器を選び始めた。
「俺はこれだな」
そう言って取り出したのは程よい長さである刀身が波打っている剣だった。かなりの重量があるのだが、彼の筋力はものともしなかった。
「私は、これ」
柚季は二本の片刃の剣だった。それをケースを腰に取り付けしまう。柚季は魔法主体にする予定なので武器はあまりするつもりはないという考えからだった。
「私はこれにしようかな」
乃乃が手にとったのはシンプルな刀剣だった。乃乃は短剣を選ぶとばかり思っていた健翔は軽く目を見開き、乃乃の表情をみて自分の態度が恥ずかしくなった。
乃乃は、何かを振り切ったかのような凛とした表情を浮かべていたからだ。彼女の中で葛藤し、悩んだ末に決断。健翔はその決断に水を指すような考えだったと自身を恥じたのだった。
「私は、これ!」
瑠璃が手にとったのは片刃の長剣。乃乃のものより重量があり、瑠璃の手に一番馴染んだものだった。
「じゃあ、僕は……」
そう言って取り出したのは軽く加工された同じ型で作られた二本の刀剣だった。
「なあ、颯太。お前、双剣で戦うのか?」
「うん。せっかく戦うなら遊撃みたいな戦いがしたいなって思ってね」
「そう、か」
そう口どもる健翔はそれ以上何も言うことはなかった。
柚季たちは初めてもつ武器に浮かれて軽く振り回す。ゲームの知識をそのままにふるとそれっぽく見えるのが不思議だ。
「それじゃあ、ちょっとまってろ。それぞれにあった教官足りえる者連れてくる」
そういって騎士はまたどこかに言った。健翔は頭を掻くと、武器を構えると上から下へと振り下ろす。その時、前へと身体が持って行かれ転けそうになったのは彼だけの秘密だった。
6時間後、健翔たちはクタクタの様子で夕食の席にぐったりしながら座っていた。食事はすでに運ばれておりスープやパン、スパゲッティなどが並べられているものの、彼らはなかなか食事をしようとしなかった。
スプーンを持って口に運ぶとしても2,3回運んだらすぐに休憩すると言った感じで、なかなか胃袋が満たされない。
「まさか、あんなに厳しいなんてな……」
先ほどまでの訓練の様子を思い出して口に出すと、颯太が苦笑いしながら乗ってきた。
「うん……足が棒のようになるってよく聞くけど、腕でもそうなるんだって今日実感したよ」
「私、魔法使い、なる」
「でもなぁ柚季、結局死なないためには短剣も必要だろ?」
「そう、だけど……」
健翔と同じく先ほどの訓練の様子を思い出したのか軽く身震いをする。普段あまり感情を表に出さない柚季ですら疲れと恐怖を顔に出すほどだった。
だが、その分戦闘の基礎は身についたはずだと健翔は今日の動きを頭の中で反芻する。筋力は使って乳酸は貯まれど、脳の中で復習することはできる。健翔は何度も同じ動きを反復し、しっかりと身についたことを確認した。
よし、と明日に備えるためにスプーンに手をかける。さっきまでは味わう余裕はなかったが、今一度きちんとスープを見ると、日本ではみたことがない透き通ったスープに健翔は驚いた。
その中に入る小さな野菜は小さく切られている透明なスープの見た目を崩さないように色とりどりの野菜が入っていた。
スプーンをスープの中に入れて掬うも、濁ることのないスープはまるで空気に入れているようだった。
そのまま口に含む。するとあっさりした味わいが口元に広がり、ゆっくりと喉を通って行く。だが、健翔はなにか物足りないと噛みしめて、びっくりした。野菜からはスープとは違ってとても濃厚な味が噴出されたのだ。
「うめぇ……」
自然とその言葉出る。その言葉を聞いた瑠璃と乃乃が首を傾げる。
その二人に無言でスープを進めると、不思議そうな顔をしながらゆっくりとスープを嚥下して、健翔と同じように目を見開く。
「なにこれ!? 美味しい!」
「どうやって作ったんだろ……あとで厨房に聞きに行かなきゃ」
パクパクと飲み始める瑠璃とスープについて考察を始める乃乃。それぞれ反応は違うが途端に活き活きとし始めた。
二人の様子を微笑ましげに眺めていて、ふとあることに気づく。
二人も殺気まで疲れていたはずだというのに、その疲れが吹っ飛んだかのように今は食事に勤しんでいる。
健翔も、自身について確認し、気付いた。疲れが、ほとんどなくなっていると。勿論、ほとんど、ということは多少の疲れは残っているのだが、さっきまでの激しい倦怠感はなくなっていた。
(このスープ、疲れが吹っ飛ぶ仕様でもあるのか? あーでもここ異世界だしなぁ。魔法あるし、こういう仕様もあるのかね)
疲れが吹っ飛ぶような、ではなく吹っ飛ぶスープに納得した健翔は、もう一口、もう一口と中毒者のようにどんどんスープに手をつけていった。
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