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弱き勇者の最強譚(旧題:心のカタチ)  作者: 二本狐
第一章 別れと出会いの召喚
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謁見と測定


 その後、一旦解散することになり、それぞれ考えをまとめる時間となった。だが、その時間もトルトーナが現れることによってすぐに終わりを告げる。

 夕方6時になると陽はすっかり暮れるとともにトルトーナによって全員廊下に呼び出された。



「これから王様に謁見していただきます。……すいません、このお部屋にお通しする前に、本当はこの国の王に会っていただくことが先だったのですが……」

「なに、王様が忙しかったとかそんなんだろ?」

「いえ、私が忘れていました」

『忘れていたんかい(ですか)!?』



 健翔、颯太、瑠璃、柚希、乃乃が、つまり全員一斉に突っ込んだ。そして同時に『この人どこか抜けてるな……』と思い少し冷や汗を流さざるを得ない。



「では、こちらです。すでに王は数時間も待たれており、お腹がお冷えになられているとのことです」



 それはあんたのせいだろ、とここにいるもの全員が思ったが口には出さなかった。







 健翔達の部屋は三階なので、そこから一階まで降り、謁見の間に向かう。



「では、ここより先は謁見の間で王と謁見することとなりますが、あまり硬くならずに自然体でお願いします。王は寛大(かんだい)でお優しいお方でありますし、あなた方もあまりこういった場は慣れておられないということは熟知してらっしゃいますので」



 というよりも、と続けようとして、口をつぐむ。それを不自然に思った乃乃だったが、別にいうほどでもないかな? と思いなにも言わなかった。



 それよりも、とトルトーナの言葉に一同がそれぞれ頷く。やはり異世界の王、ということで多少なりとも緊張しているのがみてとれた。トルトーナはこれ以上はいっても無意味とわかっているため、無言で扉を警備をしている兵士にアイコンタクトをする。無言じゃないアイコンタクトはなんだろうか。睦ましい恋人がやることだろう。



「では、私についてきてくださいませ」



 その声と同時に扉がゆっくりと開かれた。

 健翔達の視界に飛び込んできたのは煌びやかな光を発する豪奢なシャンデリアだった。



 この世界の謁見の間とは、城の中でも随一の広さを持っており、その広さ、美しさ、煌々とした灯り、それらすべてに気品があり、それらすべてはまず王の第一印象を受けることに対して多大なる貢献をすることになる。



 健翔達は全員が声を失って目の前の造りに目を奪われた。



 煌びやかな造りだけではない、レッドカーペットが直線状に真っ直ぐ引かれた先に王が、まるでそこにいるのが当たり前であるかのように、腰を深く腰掛けている。

 また、そのレッドカーペットから両端に距離にして10メートルほど離れた場所に、向かい合うようにして立ち並ぶ騎士たちが整然としており、そのあまりの健翔達が目を奪われていた。



「では、付いてきて下さい」



 トルトーナの声によって全員我に返り、身を硬くしながらトルトーナの後ろを歩き始めた。

 距離にして、五十メートル。城の大部分を占めているだけあり、かなり奥行きがある。その距離を全員静かに歩いていく。



 健翔達が今まで感じたことがない緊張感が場を支配し、誰も口を開くことはなかった。



 王から数メートル離れた場所で歩みを止め、王を目に捉えた。

 この国の王は、四十歳前半であり、穏やかな表情をしているが、威厳というものが体から溢れているようかのだった。



「陛下。召喚に応じられた者を連れて参りました」

「ごくろう。できればあと二,三時間ほど早く連れてきてほしかったよ」

「陛下が言えたものじゃありませんが? いつも会議があるという日に限って森に行き、大臣の方を悩ませているのはどなたでしたか?」

「うっ……」



 王はトルトーナの反論できない言葉に声が詰まり、少しの間口をパクパクと開かせ、その話から逃れるようにコホンと咳払いをした。するとトルトーナは玉座の隣に移動し、自然体で立つと建都達の方をみた。



「では、勇者たちよ。よくぞ召喚の儀に応えてくれた」



 威厳に物を言わせた物言いに健翔と柚希がピクリと耳を動かす。そして健翔が突っかかろうとした寸前でまたしてもトルトーナが口を開いた。



「失礼ですが王。その言い方は失礼ではないでしょうか? 私がある指定をして勝手に召喚したのですよ。そのことに対してはすでに謝り、了承を得ていることです。ですが王、応えた、ですか? なんでそんな高慢なものいいができるのでしょう? 私はとても不思議でたまりませんね。私が何を言いたいかといいますと、さっさと謝罪してくださいこの無礼王」



 王に対してとても無礼な言葉をつらつらと発し、健翔達はとてもハラハラとした気持ちで王を見た。しかし、王は怒りだすどころか、とても申し訳なさそうに『ごめんなさい……』と健翔達に謝ったのをみて、トルトーナが王より上なのでは? という疑問が浮上した。



「では、改めて、フェジス王国にようこそ、です。真に勝手ながら我が国に異世界から召喚してしまい申し訳ないと思う。あ、はい……ごめんなさい。トルトーナの言うとおりです。本当にごめんなさい。……ゴホン、我が国は肥沃的な土地であり、作物がって、え? そんなことはいい? いやでもここは……ご、ごめんなさトルトーナさん! 痛い痛い! 痛いです!!」



 こいつ本当に王か? という疑問はますます強まった。

 さっきはほとんど憂いの表情しか見せなかったトルトーナだが、今はとても機嫌が悪そうに顔を(しか)めながら王に説教をし始めた。



「いいですか、王。私たちフェジス王国は勇者の方々を丁重にお招きするという義務があります。それは王の態度から始まり、衣食住全般に全般に関わらなくてはいけません。ですのに、ツラツラの長い説明を受けたいと思いますか? 大体私が説明しようとして断られた部分を王の口から聞きたいとお思いに」

「で、でもトルトーナや。私がそんなようなこと知るはずが……」

「知らずとも知っていてください」

「そんな無茶なことをっ!」

「あー、そろそろ続きお願いしたいのだが」



 話が進みそうになかったので健翔が続きを促した。それでハッとなった王はゴホンと咳払いをし、口を開いた。他方、トルトーナは何事もなかったかのようにお淑やかに佇んでおり、先程まで王に説教していたのは幻覚なのかと全員が目を擦って確認するほどであった。



「あー、それでだ。今日は勇者様方に魔力測定をしていただきたい。それを参考にしてそれぞれの武器を選び、それに合った訓練を積んでいただきたいのだ」

「その魔力の測定法って?」

「うむ。それは……ユナス、前へ」

「ハッ!」



 出てきたのは白いひげを生やした老人、ではなくそれなりにがたいが良い三十代の男。ローブを着ているがどこか怪しい雰囲気がある。



「この水晶は、触った者の魔力を数値化し水晶に映し出す魔道具(アーティファクト)と呼ばれるものだ。簡単に言うと魔力を運用した道具だな」

「へぇー。そういう魔道具は貴重なものなのか?」



 健翔が質問すると、ユナスはいかにも真面目な顔をしてゆっくり顔を横に振った。



「この世界は魔法とともに文化は発展してきた。その文化の発展に魔道具(アーティファクト)の歴史あり、と言ったものだ。身近なものだと、トイレやコンロ、少し大型なものだと闘技場にある防壁装置という物理・魔法どちらにでも耐久性があるものがある」



 つまり地球で言うと家電製品みたいなものなのか、と勇者一同はそれぞれ納得した表情をみせる。



「そうなのか。ありがとなユナス。じゃあ、早速魔力測ろうぜ」

「そうだな。では、まず君からやってほしい」



 健翔が指名され、めんどくせぇと頭を掻きながらユナスに近づく。

 水晶に触ると、淡い光を放った。



「これでいいか?」

「ああ。では手を放してくれ」



 言われた通りに手を放すと、数字が書かれていた。



「ええっと…2100? 多いのか少ないのかわかんねぇな」

『なっ!?』


 健翔が発した数値に、王とユナス、大臣達が驚きの声を上げた。その声に健翔がビクッと体を震わせる。



「なっ、なんだぁ?」

「……ひとつ、言い忘れていたことがある」



 少し冷や汗を流していたユナスに、健翔はもしかして数値が低いのではないかと内心焦る。が、すぐにその焦りは打ち切られた。



「この世界での平均魔力は千だ」

「……じゃあ、俺は?」

「何もしていないというのにこの数値。さすが勇者殿と言ったものだ」

「チート仕様だな……」



 そう呟き次に回そうと元の位置に戻ると、健翔が向かっている間に順番を決めていたらしく、今度は颯太が向かった。



「えっと、ここでいいんだよね?」



 手を置くと、先ほどの健翔と同じように淡く発光し始める。



「では、君は……3300!? さらに上をいっただと……!?」

「3300かぁ……じゃあ、もしかして僕の推測は当たってるのかも」

「どういうことだ?」

「それは皆の魔力を測ってからだね。次は瑠璃ちゃん」

「はーい」



 元気に返事をして颯太と入れ替わりに水晶に触れた。また淡い光を放ったあと、手を放した。



「2700……」



 ここにきて、目の前でその魔力をみているユナスは絶句していた。それは最初に2100を叩きだした健翔をはるかに凌いだ数値を叩きだしているからなのは明白である。



 ふむ、と少し顎をしゃくった健翔も、ようやくピンときたようだ。そして、苦笑いしながら颯太を見遣る。

 何故自分が魔力が――決して低くないのだが――この中で一番低いのか納得した。



「次は、乃乃ちゃんだね」

「う、うん…」



 少し怪しいステップを踏みながらユナスに近づき水晶に触る。ユナスは数字をみて、さらに絶句した。



「よっ、4700……」

「最後だ、柚希」

「…うん」



 少し項垂れている健翔に声をかけられた柚季が変なものを見る目で健翔を満た後に、水晶に近づく。そして水晶に触れると、先ほどとは違う、強めの色をした光り方をした。



「……熱い」

「だ、大丈夫柚希ちゃん?」

「んっ。大丈夫。ちょっと、熱かった、だけ?」

「え? 熱い?」



 さっきは熱くなかったけどなぁ、乃乃と不思議に思い水晶を見ると数値がきちんと示されていた。



「6300……すごい、凄いよ柚希ちゃん! 運動ができないだけあるよね!」

「……それ、褒めてる?」



 ジトッとした目で乃乃をみたが、乃乃は明後日の方向をみてその視線を回避した。



 この魔力の総量、簡単に言うと運動ができないランキングになっていた。



 一番できる健翔は文句なしの最下位。次いで運動ができる瑠璃は四位、平均的な颯太は三位で運動が苦手な乃乃は二位。そして、運動音痴である柚希は一位という結果になったのだ。なんともわかりやすい理由だった。



「ゆ、勇者の方々がこれほどまでとは………特に最後の方、貴女は訓練を積んでおらぬというのに、すでに下位の魔族並みの魔力をお持ちである。こう、どこか清々しい。ここまであっさりにと魔力を追い抜かされるとは……」



 ユナスの魔力値4200。そしてもともとの魔力は1200だった。

 大人になるにつれて徐々に上がり、二十歳で打ち止めとされるのだが、それでも平均よりは頭一つ分抜けており、齢48にしてここまで上げたが、それまでの努力が魔法の魔の字もしらない子供にあっさり打ち負けたのだ。どす黒い感情はなく、ただ清々しいと感じるばかりであった。



 ゴホンッ、と王が咳払いをする。にわかにざわめきが謁見の間で広がっていたが咳払いで風が穂を撫でるように静かになった。



「では、今日は疲れたであろう。それぞれ部屋に戻り、明日からの訓練に備えてほしい」



 その言葉により健翔達はこの場から退場することになった。

 そのとき、一緒に退場したトルトーナが健翔にそっと耳元に口を近づける。



「契約の儀式は、ケント様のお部屋で行わせていただきます」

「……わかった」



 そこから何事もなかったかのように二人は離れ、部屋に戻ることになった。



 柚希と乃乃と瑠璃はこの日、せっかくだから一緒の部屋で寝ようという話になっていたのだが、ガールズトークが白熱して翌日精神がガリガリと削られたまま訓練に挑むことになることをまだこの三人は知るところではない。


お読みいただきありがとうございます。

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